研究課題
所期の一年目の研究の目的は、"電流&磁場による(Co/Ni)細線中の磁壁伝搬観測と磁化ダイナミクスの検証"を行うことであった。磁壁伝搬観測データは、特別研究員本人が以前所属していたパリ南大学で行った実験データを用いた。解析をより詳細に行うために、数値シミュレーションを用いて磁化ダイナミクスの解明を行った。磁気光学カー効果(MOKE)顕微鏡を用いて磁壁伝搬観測を行った。試料は、電子線リソグラフィーとArイオンミリングを用いて作製した。MOKE顕微鏡を用いて、磁壁伝搬を観察し、電流印加時間と磁壁移動距離から磁壁伝搬速度を見積った。磁壁電流駆動に必要なしきい電流密度以下(J_<th>^<exp>~0.92x10^<12>A/m^2)では、磁壁伝搬速度は磁場の大きさに依存しないことがわかった。これは、電流密度が小さい領域では、磁壁伝搬速度がv_<H+J>=u+v_H (1)(u : Full spin taransfer)であることを示している。一方、しきい電流密度を超えた領域では、特に磁壁伝搬方向が、スピントランスファー方向と磁場印加方向で異なる時、式(1)から逸脱する結果が得られた。数値シミュレーションの結果から、電流密度が大きい領域(式(1)より逸脱する領域)では、磁壁構造が不安定な構造を持ち、磁壁の回転速度が大きくなることでスピン波が誘起され、磁壁の両際の磁区構造を不安定な状態にしていることがわかった。また不安定な状態が大きくなると、磁区に新たな磁壁構造が生成し、生成した磁壁が元の磁壁と消滅することにより磁壁伝搬が起きていることがわかった。電流密度の大きな領域または印加磁場を大きな領域では、磁区が不安定な構造を持つことによる磁壁の生成・消滅が誘発されることが明らかになった。この結果から、(Co/Ni)細線中の磁壁の電流と強磁場下における構造の安定性を明らかにすることができた。この結果は、磁壁構造の安定性と不安定性のしきい領域を明かにすることができ、磁壁を用いるMRAMの研究開発に大きく貢献することができた。
2: おおむね順調に進展している
この成果は、下記「13. 研究発表」の学会発表5件(国内4件, 国外1件 : オーラル1件、ポスター4件)で成果として発表を行った。また、この結果は、現在論文を作成中である。このことから、現在までの達成度として、おおむね順調に進展していると評価する。
今後の研究の方針として、まず第一に論文を作成し、雑誌論文として投稿を行うことである。現在までの進捗として、実験データを数値シミュレーションにより再現する段階までに到達しているが、細かい点で不一致が生じている。そこで、今後の方針として、数値シミュレーションのパラメータの見直しと新たな効果を取り入れてシミュレーションを行い、実験データとの比較をする。その後、データをまとめて雑誌論文として発表を行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件)
Applied Physics Express
巻: 7 ページ: 1-3
10.7567/APEX.7.033003
Journal of Synchrotron Radiation
巻: 20 ページ: 620-625
10.1107/S0909049513012508