研究実績の概要 |
アモルファル希土類-鉄族合金薄膜は、磁気光学記録媒体として活用されてきた材料で、最近ではTbFeCo細線中の磁壁電流駆動に関する報告がいくつかなされている[IEEE Trans. Magn. 46, 1695(2010), Appl. Phys. Exp. 4, 093002(2011)]。磁壁電流駆動の閾電流密度が約5×10^10 A/m^2と今までに報告された垂直磁化を持つ結果と比較すると一桁オーダーが小さい。しかしながら、この理由は明らかでなく、フェリ磁性体のスピントランスファー効果の作用についてより詳細な解明が求められている。そこで昨年度は、このフェリ磁性体におけるスピントランスファー効果の作用を調べるために、TbFeCoにおける磁壁移動ダイナミクスの研究を行った。電流による磁壁移動ダイナミクスを検証するために、TbFeCoの組成比が異なる膜での磁場に対する磁壁移動速度を調べ、結果を解析した。試料は、組成比が異なる三枚のTbFeCo膜[Ta(5 nm)/TbFeCo(15)/Ta(1)/Si-sub]を用いた。磁壁移動は、外部磁場に対する磁壁移動速度を磁気光学カー顕微鏡を用いて観測した。
各膜のTbFeCoでクリープ領域まで磁壁移動速度を観測することができた。各膜において保磁力が小さいほど、磁壁移動速度がクリープ領域において遅いことがわかった。磁壁速度と保磁力の依存性については明らかになったが、組成比と磁壁移動速度の依存性に関しては、不明な点が多かった。組成比と磁壁移動速度の解明は今後の研究課題である。また今回使用した膜において、細線幅600 nmの磁場/電流駆動を試みたが、磁壁が細線端にピンニングされ磁壁移動を観察することができなかった。TbFeCoの試料作製工程における細線端のピンニングの大きさを減少させることは、もう一つの今後の研究の課題である。
|