研究実績の概要 |
本研究は三角格子・正方格子を持つ遷移金属カルコゲナイド化合物の電子状態を光電子分光などの様々な手法を用いて軌道状態と超伝導の関連を調べることが目的である。平成26年度は三角格子系IrTe2とその類似物質である超伝導体Au1-xPtxTe2、及び正方格子系FeSeの関連物質であるAFe2Ch3(A=Ba,Cs,Ch=S,Se)について研究を行った。 (1)三角格子系 IrTe2, Au1-xPtxTe2 角度分解光電子分光及び位置分解光電子分光を用い、低温相における特異な電子状態の観測に成功した。一方、Au1-xPtxTe2については、Jahn-Teller歪みに起因する価数状態を明らかにし、Te 3dの吸収端からTe 5pホールを示唆する結果が得られた。これはこの系の超格子構造形成にはTe 5pホールが重要な役割を果たしていること示している。これらの結果については国内の研究会で発表を行い、Au1-xPtxTe2については既にPhysical Review Bで掲載されている。
(2)正方格子系 AFe2Ch3(A=Ba,Cs,Ch=S,Se) X線吸収分光、X線及びHe放電管を用いた光電子分光を行った。A=Csのとき、期待される価数状態に反してFe 2pの内殻構造は鋭く、一方、A=Baの際は肩構造を持つ内殻構造が観測された。この結果は前者においてSeサイトに電子が局在しており、後者については遍歴的な成分と局在的な成分が共存することに起因する結果であると考えられる。これらの結果については、既にPhysical Review Bで掲載されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三角格子系についてはIrTe2の類似物質Au1-xPtxTe2と比較を行い、Ir5d又はAu5dとTe 5pの軌道縮退と超格子構造との関係について重要な知見を得ることができた。また、正方格子系についてはFeSeの関連物質であるAFe2Ch3(A=Ba,Cs,Ch=S,Se)の電子構造を初めて観測し、遍歴的な電子と磁性を担う局在的な電子が共存する特異な電子状態であることを明らかにすることができた。これは遷移金属カルコゲナイド化合物における軌道自由度と超伝導との関係解明に貢献する結果であると考えられる。
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