本研究は、ナノ流路とナノ流路を挟み込むように作製したナノギャップ電極を有する検出部によりウイルスの電気インピーダンス信号を検出し、 電気等価回路モデルを用いた解析を行いて等価回路パラメータを抽出することで、電気インピーダンス信号から各ウイルスの成分・構造を識別する手法を確立することを目的としている 本年度は、前年度までに開発した500 nmギャップのナノギャップ電極を用いて、200kV/m以上の高電界を印加しながらインピーダンス計測と解析を行った。本計測条件では、ナノギャップ間の計測場に多粒子が存在すると推定されるが、ウイルス種に固有のインピーダンススペクトルを検出できた。さらに、特定の周波数のインピーダンス値の実部と虚部を抽出することで、濃度に依存せず3種のウイルスを識別できることを示した。 また、ウイルス粒子を楕円球殻と仮定し、ウイルス粒子周囲に電気二重層が存在すると仮定した解析モデルを考案し、電気インピーダンス測定データの解析を行った。本手法を用いた解析では,100kHz以上の周波数領域では理論値と実測値が良く一致するものの、それよりも低周波数の領域においては、理論値と実測値が大きく剥離する結果となった。この原因としては,高電界下にて生じる誘電泳動による粒子の移動、また粒子間の相互作用などの複雑な現象をモデルに組み入れていないことが考えられ、これらを考慮した解析モデルの開発が今後必要である。 本年度の計測は多粒子系の計測であるが、目的とするナノ流路内への単一粒子の安定した送液と計測が同時に可能なデバイスには未だ至っていない。今後はナノ流路の活用だけでなく、送液が容易なマイクロ流路の計測部への活用や、マイクロ流路内に粒子を1個ずつ送り込める機構の組込により単一ウイルス粒子の計測を行うことも検討している。
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