水素吸蔵合金は水素を吸蔵することで高体積密度に水素を貯蔵可能だが、水素吸蔵に伴い体積が膨張するため、合金容器に応力が発現し、容器の変形・破損を招くことが知られている。本年度の研究では、この合金容器の変形・破損を設計段階で防ぐための手法を確立することを目的として、有限要素法ベースで合金容器に発現する応力を推算する手法を検討した。また、合金は一般に粉砕されて容器に充填され、さらに水素を吸放出することで微粉化し、充填層内で偏析が生じることが知られている。そのため、合金充填層の偏析状態を考慮して発現する応力を推算する手法を検討した。 まず、合金充填層を連続体とみなした場合の巨視的な力学的特性に関して検討するため、充填層を圧縮する過程における圧力と充填層内の充填率の関係を、一軸圧縮試験によって測定した。試料には所定の回数水素を吸放出させたものを用いた。充填層の圧縮にかかる圧力は、充填率がある閾値に達するまではほぼゼロであり、充填率がその閾値を超えた後は充填率の増加に伴い増加した。この実験結果から、充填率の増加に伴い、充填層を連続な物体と仮定した場合の、みかけのヤング率は増大すると考えられる。 次に、有限要素法を用いて上記の圧縮試験を模擬した応力解析を実施し、充填層のひずみに対する上面の圧力の変化を算出した. 実験結果より、圧縮過程における充填層のヤング率は充填率の変化に対して指数関数的に増加し、除荷過程におけるヤング率は一定の値を示すと仮定した。このヤング率の取り扱いによって得られた圧縮試験を模擬した解析の結果は、実験結果と良好に一致した。さらに、水素吸蔵時に合金容器に発現する応力を同様の手法で推算したところ、比較的精度よく発現する応力を推算することができた。 以上より、水素吸蔵合金容器に発現する応力を、簡易な圧縮試験の結果を基に精度よく推算可能な手法を開発することができた。
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