前年度から引き続きK安定性の概念の見直しをテーマとして取り組み、特にS.Boucksom氏とM.Jonsson氏との共同研究を通じて、昨年度得た予想の主要な部分をほぼ全て肯定的に解くことができた。 定スカラー曲率ケーラー計量を持つ偏極多様体はK安定であることが知られており、ファノ多様体などに対しては逆も正しいことが近年明らかにされた。このときは定スカラー曲率ケーラー計量はケーラー・アインシュタイン計量と等価であることに注意する。しかしながら一般の偏極多様体に対しては、定スカラー曲率ケーラー計量の存在を示すためにはより強い安定性の概念が必要であると考えられる。 私は特にG.Szekelyhidi氏の提唱した一様K安定性の概念に注目した。K安定性は偏極多様体のテスト配位と呼ばれる変形族を任意に取ったとき、そのドナルドソン・二木不変量が正値であるという条件で定義される。一様K安定性とはこのドナルドソン・二木不変量がテスト配位について一様に正であるという条件である。我々はSzekelyhidi氏の考察を発展させJ一様K安定性を定義した。するとケーラー・アインシュタイン計量を持つような多様体はすべてJ一様K安定であることが分かった。このような多様体のクラスに対しては定スカラー曲率ケーラー計量とK安定性が等価であったが、本当はもっと強い一様安定性が成り立っているというわけである。 J一様K安定性がより本質的であると思われるのは、それがAubin氏や満渕氏の導入したエネルギー汎関数の代数的な対応物と見なせるという事実である。実際KエネルギーがJエネルギーに関して一次のオーダーで発散するという条件(coercivity)からJ一様K安定性が従うことが証明できた。 今後は多様体がゼロでない正則ベクトル場を持つ場合の考察や、一般の偏極多様体で一様K安定性を仮定したとき解析的にどのようなことが言えるかの考察をしたい。
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