研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、スポーツやダンスなどの全身を用いたリズミカルな運動に応用可能な理論モデルの構築を目指し、非線形力学系理論を用いて、全身リズム動作における個人内/個人間協調の組織化、および組織化に関わる制約因子の解明することであった。本年度は、個人間の協調について、フランスのモンペリエ第一大学で研究を実施してきた。人間は他者と共有された現実を経験することに対して根源的な欲求を持ち、運動同期はその手段の一つである(Echterhoff, 2009)。このことは人間が太古より、集団で音楽を奏で、共に踊ることで他者との絆を深めてきた歴史的な事実(Mithen, 2005)からもその妥当性が支持される。近年社会心理学の研究から、他者との運動同期による社会性の向上や、相手の心理変化(印象が良くなるなど)が多数報告されており、統制条件から運動同期そのものが心理変化を起こすことが明らかになってきた。そこで本年度は、社会性と運動協調の関係を全身のリズム動作を用いて調査した。大学生30名を対象に2人1組で向かいあって立ってもらい、リズミカルに膝の屈伸運動を行わせた。逆位相から初めても同位相へとすぐに切り替わってしまう引き込み現象が観察された。また、その後運動同期を繰り返すと、自他の認知と関わる心理指標(自分と相手をそれぞれ1つの円と見なし、その2つの円が重なる面積が異なる7段階の選択肢)が変化し、自分と運動を同期した相手を、より重なり部分の大きい2つの円として捉えるようになった。このことは他者との運動同期が、自他の認知を変えることを示唆する結果である。今後は運動同期時のキネマティクスを解析し、個々人の社会性や2者の社会性の差などとの関連を明らかにし、そのモデル化を試みる。
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