オートファジーを欠損した突然変異株(atg株)は栄養飢餓などの環境ストレスに対してより感受性になるのが一般的である。確かに、ヒメツリガネゴケのatg株は栄養飢餓条件下に置かれると、野生株よりも早く細胞死を引き起こす。しかし、乾燥ストレスに対しては、アブシジン酸(ABA)によって乾燥耐性を誘導した場合、オートファジー欠損株またはオートファジー阻害剤3-MA処理された株は野生株よりも強くなるという全く反対の応答を示すことを見出した。本年度は、そのメカニズムを詳細に調べ、乾燥ストレス前と吸水後の各々にオートファジーが関与することを明らかにした。オートファジー欠損株は野生株よりも細胞内の糖含量が高く、乾燥ストレスにより細胞が受ける傷害が軽減されることが予想された。薄層クロマトグラフィーによる糖分析を行うと、野生株とatg株の両方でABAによってスクロース蓄積量が増加した。また、その蓄積量は野生株よりもatg株において多くなる傾向を示した。スクロースは適合溶質として広く知られており、オートファジー欠損によるスクロース蓄積が乾燥耐性を向上させている可能性が示唆された。吸水過程でのオートファジーの役割として、リボソームRNA(rRNA)に着目した。リボソームは新規タンパク質合成の場であるため、これが分解された場合は生命維持に関わると考えた。吸水0時間では2本のrRNAバンドが確認できたが、そこから24時間後にはバンドが薄くなっていた。しかし、そのバンドは3-MAを処理した方が残っていた。このことは、吸水過程においてオートファジーがrRNAもしくはリボソームを分解している可能性を示している。吸水後においては、細胞が乾燥ストレスによる傷害を修復しながら生存していく過程で、オートファジーがタンパク質合成の場であるリボソームを分解することにより細胞の生存力を低下させている可能性を見出した。
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