本研究において、ウサギおよびシログチ・トロポミオシンのC末端側断片(190-284残基目)の20 ns間にわたる分子動力学シミュレーションを、水を明示化したモデルでそれぞれ7回行った。シミュレーションソフトは、Amberを用い、構造解析にはTwisterを用いた。解析の結果、239残基前後において、ウサギ・トロポミオシン断片は、シログチ・トロポミオシン断片と比較し、スタガーと呼ばれる構造変化が起こりやすいことが明らかとなった。本研究では、屈曲とスタガーの関係を求めるために、屈曲を二つの方向成分に分解した。スタガーと特定の方向の屈曲の関係は、幾何学的な関係に近似できると考え、関係式を作成し、その妥当性を確認した。本研究により、アミノ酸残基置換が構造に与える影響が明らかとなった。病気を引き起こすアミノ酸残基置換と種間で見られるアミノ酸残基置換が、構造に与える影響の差異について、今後さらに研究する必要があると考えられた。 ウサギ完全長トロポミオシンの200 ns間の分子動力学シミュレーションを、水を明示化しないモデル(一般化ボルン法)で3回行った。表面張力の計算を行うと、シミュレーション・コストが10倍になるため、表面張力の計算は行わなかった。その結果250残基からC末端にかけて、二本のαヘリックス鎖は大きくずれたが、これは計算条件のアーティファクトによる可能性もあるものの、トロポミオシンのアクチン結合能や筋収縮調節能に影響を与える可能性がある。したがって、異なった計算条件で分子動力学シミュレーションを行いつつ、in vitro実験による検討を行う必要があると考えられた。
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