抗リン脂質抗体症候群(APS)は、抗リン脂質抗体の出現に伴う動・静脈血栓症や習慣流産の発症を特徴とする自己免疫性血栓塞栓性疾患である。本研究では、APSの診断精度の向上と抗リン脂質抗体の作用解明を目的とした。 まず、APS診断の要となる抗リン脂質抗体を、認識エピトープ別にELISAにて検出できる測定系を確立し、各種抗体とAPS関連症状との関連を検討した。確立したELISAを用いてAPSの代表的な基礎疾患である全身性エリテマトーデス患者を対象に各種抗体を測定した結果、動・静脈血栓症および血小板減少症の発症には抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体が非常に強く関連しており、一方で、習慣流産の発症には抗カルジオリピン/β2グリコプロテインI抗体が関連していた。このことから、APS症状には複数の抗リン脂質抗体が関与しており、現在診断に用いられている抗体測定だけでは不十分であると考えられる。複数種の抗体測定を実施し、患者が有する抗体の種類を明らかにすることで、血栓症や習慣流産等の発症リスクをある程度予測できる可能性が示された。 また、Apsの病態に関与する抗リン脂質抗体の作用について、APS患者血漿より精製したIgGを用いてin vitroの検討を行った。その結果、APS患者IgGは単球表面の組織因子発現を誘導することや、末梢血単核球のMCP-1および各種炎症性サイトカイン産生を促進すること、血管内皮細胞および単核球からのNO産生を促すことなどが明らかとなった。以上の結果から、抗リン脂質抗体により単球の血管壁への遊走・接着や炎症がもたらされ、これらが多彩なAPS症状の発症に関与していると考えられる。今後、各種因子発現に至るシグナル伝達や細胞間の相互作用に関するさらなる検討を積み重ねることにより、APS発症機序の解明やAPS症状の発症予防につながる知見が得られると期待できる。
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