本研究は、古代ローマの文芸における理論面(弁論術・詩学)を対象とするものと、その理論面を踏まえたうえで実作たる作品を対象とするものである。本年度は、特に理論面に関して、ホラティウス『詩論』について以下のような内容を研究成果として発表した。 vraisemblance「真実らしさ」という概念について、ホラティウス『詩論』 338においても、proxima veris「できるだけ真実に近いもの」 という表現があることから、vraisemblanceという概念が形成されていくにあたり、『詩論』も一定の役割を果たしたと思われる。しかし、ここでのproxima verisは、『詩論』中の文脈を踏まえるならば、一般的なvraisemblance概念よりもずっと限定的な内容が意図されたものと推測される。結局、proxima veris(338)はあくまで「舞台上で見せること」に限定されたものであり、報告者による語りにまで適用されるものではなく、したがって物語創作全般に適用されるようなvraisemblanceというわけではない。そもそも『詩論』本来の文脈での理解が、今日定着しているvraisemblance概念によって、歪められたものとなっているのである。 また、実作を対象とするものとして、ウェルギリウスの諸作品を対象とした最新の研究書(The Protean Virgil; Material Form and the Reception of the Classics. Oxford 2015.)の読解に取り組み、この書籍に対して書評を執筆した。
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