採用三年度目は、アンリ・プーラの『丸い丘の上で』の批評校訂版と語彙集の作成を継続しつつ、アンリ・プーラが引用した文章・エピグラフの原典を確認し、挿絵の研究を行った。アンリ・プーラの『丸い丘の上で』は生前に6回出版され、文章が出版の都度書き換えられているだけではなく、アンリ・プーラが引用しているエピグラフや挿絵にも版ごとに違いが見られる部分があり、比較検討する必要があることが分かった。その量の多さゆえにまだ全てを明らかにすることは出来ていないが、『丸い丘の上で』の挿絵は、アンリ・プーラの共著者であり初版出版後に亡くなった、ジャン・ロラーニュの弟のフランソワ・アンジェリの版画であることが分かった。挿絵が入っている版は、C版とD版とF版である。まず一番挿絵が少ないのはD版で、C版とF版は各エピソードに合わせた挿絵が入っているが、どれも同じものは存在しない。傾向としては、版を重ねるごとに繊細で趣向を凝らした挿絵に進化しており、挿絵全てをまとめた図版を作成することで、『丸い丘の上で』の生成過程の更なる理解に繋がり、今後の新たな研究題材を提供することが期待される。エピグラフに関しては、原典不明の物もまだあるにせよ、オーヴェルニュ地方に特化したテクストや、話のキーワードとなるようなテクストを引用することで、農村の文化を想像してから本編を読めるような作りになっている。 また、三年度目はアンリ・プーラ友の会が発行している NOUVEAUX CAHIERS Henri Pourrat n°1 に、プーラと同郷のクロード・ドラヴェーヌの「ツグミの飛来」という作品の地方語を研究したを論文を載せることができた。この論文によって、新しく辞書に補完できる情報を提供でき、パリ第四大学教授のジャン=ピエール・シャンボンが拙論をさらに発展させた論文を発表するなど、フランスで評価を受けることが出来た。
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