申請者は任意の染色体欠失を誘導することが可能である重イオンビームを雌雄異株植物ヒロハノマンテマに照射することで雌雄性に関わる遺伝子欠失変異体の探索を行ってきた。平成25年度は欠失変異を高速で検出する4Dスクリーニングの予備実験として、サンプルを1つずつPCRし、アガロース電気泳動で検出する1Dスクリーニングを実施した。重イオンビームを花粉に照射し、受粉させて得られた種子からM1世代2722個体を得た。M1世代の中から雌雄性に関わる既知の遺伝子として①雌蕊を抑制する遺伝子 : GSFと②雄蕊の発生に関わる遺伝子 : S1AP3Yの2つをターゲットにしてスクリーニングをした。スクリーニングの結果、GSF欠失株を12個体、S1AP3Y欠失株を4個体単離した。GSF欠失株は雄蕊と雌蕊両方とも形成する両性花の表現型を示した。それぞれの株において花粉の数と胚珠の数を計測したところ、両者には負の相関関係があった。雌雄異株植物は両性花植物から進化したと考えられており、進化の過程で雄蕊と雌蕊の資源投資量にトレードオフが出現することが予測されている。今回の結果はその予測を実証することができた。このトレードオフは、同じ雌雄異株植物であるホップやホウレンソウなどの農作物の花発生様式の理解の助けになるであろう。S1AP3Y欠失株は雄蕊の発生に異常が出ることが期待されたが、表現型は変わらなかった。S1AP3Yの欠失を他の遺伝子が相補している可能性が考えられたため、Bクラス遺伝子の発現量をRT-PCRによって調べたところ、S1AP3Y欠失株は対立遺伝子S1AP3Xの発現量が増加していた。これはY染色体の遺伝子退化を相補する遺伝子量補償がはたらいた結果だと考えられる。マウス、ショウジョウバエなどの動物において遺伝子量補償は多く報告されているが、植物において遺伝子欠失変異体において遺伝子量補償を調べた研究はこれが初めてである。
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