研究課題
本年度は、昨年度までに行った研究結果を踏まえ、迅速定量法を実際の環境試料に適用する上での必要手順と問題点について、詳細な検討を実施した。とりわけ質量分析法の一つである加速器質量分析を用いた迅速定量法の開発において、昨年度に有望性が確認されたフッ化鉛を混合した試料から、大電流の負分子イオンビームを引き出すだけでなく、実際のストロンチウム90の計測において、妨害となる同質量の妨害がないことを確認した。また鉛が混入することが許容されるため、文科省により定められている公定法では、鉛が混入するため用いることの出来ない固相抽出法を、本手法では問題なく利用出来ることを実験的に証明した。一方、環境試料のうち、土壌を対象としたストロンチウムの抽出試験で、従来から行われている酸抽出では除去出来ない放射性物質が存在することを確認した。これらの汚染はイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーによって容易に確認することが可能であった。また福島第一原子力発電所近くで採取した土壌から、高濃度の放射性セシウムを含む放射性粒子を分離した。この粒子はケイ素、鉄、亜鉛を含んでおり、ストロンチウムの分析手法開発時に酸で抽出出来なかった粒子と同一であることを確認した。さらに原発から2キロあまりの地点で採取した試料から分離した放射性粒子から、簡易測定でストロンチウム90-イットリウム90の存在を示唆する結果が得られた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では環境中の放射性ストロンチウムを迅速に定量する手法の開発を行っており、これまでに質量分析法の一つである加速器質量分析法を適用するための基礎研究を続けてきた。本年度は現在までに検討されてきた結果について、実用上の詳細な検証を行うことで、新たな分析法に道筋をつけることが出来た。一方、環境試料の前処理過程において、本研究でも採用している酸処理法では抽出出来ない、粒子状の放射性物質を福島原発周辺の試料から発見した。本発見は分析手法のさらなる高度化に貢献する試料特性の理解につながった。
加速器質量分析を利用したストロンチウム90分析として、同重体(ジルコニウム90)を検出器で分離するため、1)加速器運転条件の最適要件の決定、2)検出器内における荷電粒子の振る舞いのシミュレーションを実施する。また未知の放射性粒子に対して3)内包するストロンチウム90の定量を実施、4)ICP-MS等を用いて構成する他の元素の分析、5)放射性粒子を含む試料のストロンチウム90分析法の確立、を実施する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) 備考 (1件)
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http://www.tac.tsukuba.ac.jp/~ams/