既報では、主に紫外領域の光を利用した効率的な二酸化炭素光還元触媒が報告されている。本研究員は人工光合成実現に向けて太陽光の光を効率的に利用するため、以下の二点の研究を主に行った。1. 可視域に強い吸収帯を有するクロロフィルを光増感剤として用いた二酸化炭素光還元触媒系の構築を検討した。2. クロロフィルから構成されるキラルなJ会合体は効率的な可視長波長領域の光捕集・エネルギー移動を示すことから注目を集めている。しかし、分子構造が解明されておらず、その機構も明らかとなっていない。そこで、キラルなJ会合体の構造解析手法について検討した。
1. クロロフィル(3位)に二酸化炭素光還元触媒を共有結合により連結した錯体の合成に成功した。この連結錯体を溶かした溶液(二酸化炭素雰囲気下)に対して、可視-近外赤領域の光を照射することにより二酸化炭素光還元に成功した。また、ドナーであるクロロフィルとアクセプターである二酸化炭素光還元触媒の酸化還元電位をそれぞれ変えた連結錯体の光物理的性質を検討し、効率の良い電子伝達系を構築した。さらに、クロロフィル(3位)とアクセプターである二酸化炭素光還元触媒をアミド結合で連結することによりJ会合体形成が可能となり、クロロフィルがより長波長領域の光を捕集できるようになることを明らかとした。本データは、クロロフィルを用いた可視-近赤外光を効率的に利用した二酸化炭素光還元系を構築に向けて有用である。
2. キラルなJ会合体が磁場存在下で溶液中において配向することに着目した。磁場配向したキラルJ会合体において通常の円偏光二色性(CD)と大きく異なるスペクトル形状を示すことが明らかとなった。また、異方性CDを用いたスペクトルシミュレーションをしたところ、通常のCDと形状が大きく異なった。本データは、異方性円偏光二色性がキラルなJ会合体の構造解析において有用であることを示唆している。
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