研究課題/領域番号 |
13J06974
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
織田 晃 岡山大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | MFI型ゼオライト / 原子状亜鉛 / 一価亜鉛イオン / DFT計算 / 蒸着 / 一価カドミウム / 一価マグネシウム |
研究概要 |
12族元素である亜鉛の酸化数は一般的に+2または0である。+1の酸化数を示す亜鉛化合物が形成された例はほとんどない。2004年にCormonaらによって、初めて、安定な一価亜鉛イオンの錯体(decamethyldizincocene)の単結晶が合成されたけれども、今でも尚、一価亜鉛イオンの化合物の形成例は非常に少ない。また、一価亜鉛イオンの形成機構や反応性、光応答性に関する研究例は全くなく、電子状態の特徴に関する知見もほとんどない。つまり、一価亜鉛イオンの化学はほとんど発展していない。本研究課題では、MFI場を用いて安定な一価亜鉛イオンを創製し、それの状態や物性を解明し、一価亜鉛イオンに関する無機化学の発展に貢献することを目指した。以下に今年度の研究成果を記す。 亜鉛イオン交換MFI型ゼオライト(ZnMFI)を573Kで水素処理することで、水素活性化サイトとして働くZn^<2+>が安定に原子状亜鉛に還元されることを発見した。そして形成した原子状亜鉛の電子状態を紫外光で励起することによって、長寿命の三重項励起状態を経て、原子状亜鉛が安定な常磁性一価亜鉛に酸化されるといった新奇な現象を発見した。MFI中に形成した常磁性一価亜鉛は室温でさえも酸素分子と化学反応し、超酸化物(O_2-)を形成するといった特徴をもつこと、そしてその超酸化物はメタンを室温近傍でメタノールに部分酸化するといった興味深い触媒能を有するということも発見した。B酸点が豊富に存在するプロトンイオン交換MFIに金属亜鉛を蒸着させるだけで、超安定な一価亜鉛イオンの二核種(Zn_2^<2+>)を創製できることも発見した。そして、それの形成機構・電子状態を明らかにした。加えて、同様の手法を用いて、亜鉛と同族のカドミウムや類似の性質を示すとされるマグネシウムの一価イオン(それらは一価亜鉛と同様、形成困難な種である)をMFI中に安定に創製できるということも発見した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「一価亜鉛イオンの形成機構と物性」を実験と計算の両観点から議論し、それらをまとめた論文は専門家から高い評価を受けた(JACS採択)。きらに、一価亜鉛イオンをより多く創製する手法を確立し、且つ固体表面(MFI)上に形成する一価亜鉛イオン特有の物性も発見した(未発表)。加えて、同様の手法を用いて、非常に珍しい常磁性一価マグネシウムイオンやカドミウムイオンを安定に創製できることも発見し、研究を発展させることに成功した。上述した研究成果は、新たな無機化学を開拓するポテンシャルを秘めたものであると認識し、今年度の研究目的の達成度を「①当初の計画以上に進展している。」と、自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
一価亜鉛イオンの物性、特に反応性に関する知見を得ることを目指す。現在、一価亜鉛イオンが低温でメタン部分酸化反応やNOx分解反応を触媒することを明らかにしているが、反応過程での一価亜鉛イオンの役割にっいて深く理解できていない。そこで、今後、種々の分光機器を利用した測定によって反応過程での一価亜鉛イオンの状態変化を追跡し、一価亜鉛イオンの役割に関する知見を収集する。そして、計算の立場から一価亜鉛イオンの反応性の起源を明らかにする。 上述したように、最近、非常に珍しい常磁性一価マグネシウムイオンやカドミウムイオンをMFI上に創製できるということも発見した。一価亜鉛イオンに限らず、それらの形成機構や物性に関する知見も収集し、新しい無機化学を開拓することも目指す。
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