研究課題/領域番号 |
13J07008
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
柏木 一公 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | TGF-β / Tgfb1 / Dendritic Cell / Peptideglycan / PGN / c-Fos / Smad / Clostridium |
研究実績の概要 |
私は免疫抑制に働く抑制性樹状細胞: tolerogenicDC (tDC)の発生機構を明らかにすることを目的とし、tDCを用いた免疫疾患モデルや移植モデルに適応して新しい治療法を模索することを目標に昨年度の研究を行った。本研究ではまず免疫抑制性に働くサイトカインであるTGF-βに着目し、樹状細胞におけるその分泌機構を明らかにすることとした。まず樹状細胞からのTGF-β分泌がグラム陽性細菌の膜主要成分であるペプチドグリカン (PGN)であることを見出し、PGNがToll様受容体2 (TLR2)のリガンドであることから、AP-1に着目し、c-Fos及びc-JunがPGNでの刺激後にTGF-βのプロモータ領域にリクルートされてくるということを見出した。さらに各種阻害剤を用いたスクリーニングにより、TGF-βのオートクライン作用を調べることとした。そこでTGF-βの下流で働く転写因子であるSmad2及びSmad3を欠損させた樹状細胞の作用を解析したところ、Smad2を欠損させた際にはTGF-βの分泌量が上昇し、逆にSmad3を欠損させた際には著しくこれが減少することが分かった。Smad2及びSmad3はTGF-βによってリン酸化されて活性化した後、ともにSmad4とヘテロ三量体を形成して核内へ移行して転写活性を持つが、TGF-βのオートクライン作用においてはSmad3のみがアセチルトランスフェラーゼp300と結合してTGF-βのプロモータ領域にリクルートされることが分かった。これらの分子メカニズムはグラム陽性菌であるクロストリジウム属菌をマウスに投与したときに促進されることが分かり、それによって腸内におけるTGF-β分泌を介した免疫の恒常性が保たれていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私は腸管においてTGF-βの分泌を介した免疫恒常性のメカニズムの解明に挑んでいる。これまでにグラム陽性菌であるクロストリジウム属菌をマウスに投与することでTGF-βの分泌及び制御性T細胞の誘導が促進されることを明らかにし、樹状細胞からのTGF-β分泌がグラム陽性細菌の膜主要成分であるペプチドグリカン (PGN)で促進される分子機構を解明してきた。さらにAP-1がTLR2の下流でTGF-βの分泌に働いていること、またTGF-βのオートクライン作用でさらにTGF-βが分泌されることを明らかにした。これらの発見はこれまでほとんど理解されていなかったTGFβの産生機構の理解に大きな進歩をもたらすものであり、今後はエピジェネティックな発現機構の解明にも着手しておりさらなる発展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はTGF-βの分泌を促すクロストリジウム属の腸内細菌の同定や、及びその他のどのような細菌がこれを促して腸内における恒常性を維持しているのか、さらにエピジェネティックな制御を介したメカニズムの同定を進める予定である。
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