本研究では、日本語の複合名詞のアクセントに焦点を当て、その平板化の進行程度や地域差、性差などについて調査した。また、話者の属性に代表される言語外的要因のみならず、言語構造的な言語内的要因も視野に入れ、日本語複合名詞のアクセントの平板化を引き起こす要因について統計的に分析した。具体的には、「町」を後部要素とする複合名詞に焦点を当てて、調査を行った。 当該年度までに東京方言における「町」を後部要素とする複合名詞(例:山田町、曽根崎町)のアクセントの平板化については調査済であった。その結果は、確かに話者の年代が下れば、町名が平板型アクセントで発音される頻度は高くなるが、どのような構造の町名でも平板化するわけではなく、そこには言語内的要因が強く影響しているということを示唆するものであった。 当該年度は上記の研究からさらに視野を広げ、東京方言のみならず「名古屋方言」や「鳥取県倉吉方言」などについても発話調査を実施した。その結果、東京方言 > 名古屋方言 > 倉吉方言の順で、アクセントの平板化の程度は下がっていくことが明らかになった。つまり、町名は東京で最も平板型で発音されやすく、逆に倉吉方言ではまだ起伏型で発音される割合が高いということである。ただ、(1) 話者の年齢が下れば平板型生起頻度が上昇することと、(2) 男性よりも女性のほうが平板化を起こしやすいということはどの地域にも共通して観察される傾向であった。また、地域は異なれど、同様の言語内的要因が同程度アクセントの平板化に影響を及ぼしていることも明らかになった。 また、全体の結果に対してロジスティック回帰分析を行った結果、アクセントの平板化に対する影響力の差も明らかになった。その中でも最も重要なのが、言語外的要因よりも言語内的要因のほうが、アクセントの平板化に対してより強い影響力を有するということである。
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