研究概要 |
本研究では低緯度域の海洋における窒素循環と地球の気候変動の関係を明らかにするため, サンゴ礁が分布する低緯度域の完新世寒冷期, 温暖期の造礁サンゴ化石を用いて, 窒素同位体比の季節~年変動を複元する。サンゴ骨格の窒素同位体比指標は, 深層からの硝酸の供給や貧栄養環境における窒素固定量を定量的に示し, 生物が生きてきたスケールでの窒素循環の変化を復元することが可能である。サンゴ化石に窒素同位体比指標を応用する際, サンゴ骨格中の窒素が生息当時のまま保存されているかを検証する必要がある。本研究では, 15Nトレーサーの硝酸を添加した水槽で飼育したサンゴの骨格を東京大学大気海洋研究所に設置されている二次元高分解能二次イオン質量分析計(NanoSIMS)を用いて測定し, 15Nでラベルした窒素が濃集している骨格構造を明らかにする。本年度は幼サンゴ骨格を実験水槽で飼育し, 15Nトレーサーの硝酸を水槽に添加し, 骨格を成長させて、初期石灰化骨格試料を採取した。化石サンゴは鹿児島県喜界島の完新世の隆起サンゴ礁段丘で採取する。本年度は化石サンゴおよび現生サンゴのサンプリングのために、共同研究者との打ち合わせおよび調査の準備を行った。サンゴ骨格試料の採取は次年度の早いうちにおこなう。また本年度は、喜界島以外にもサンゴ化石の収集をおこなってきた。地中海、大西洋、いんどまた、本年度はサンゴ化石の窒素同位体比の詳細な季節変動を復元するために, 窒素同位体比測定のための基礎実験およびサンゴ化石の窒素同位体比測定手法の検討をおこなった。測定には極微量窒素同位体用質量分析計(VG3600)を用いた。サンゴ骨格試料を表面についている有機物が分解する温度450℃で加熱した後, 550℃以上の温度(約900℃ : 無機アラゴナイトが分解する温度)に設定し加熱することにより, 化石のアラゴナイト結晶中に保存されていた有機態窒素のみを抽出して分析することが可能である。本年度、この分析手法を論文化しChemical Geology誌に発表した。
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