喜界町塩道集落沿岸において、隆起したハマサンゴ群体および現生のハマサンゴのボーリングをおこない、全長1mのコアを3本掘り、北海道大学にて厚さ5mmの板状に成形した。板状試料の軟X線画像およびX線回折装置により、カルサイトを含まない保存の良いコア試料を選定し、年代測定をおこなった。採取したコアにより過去7000年間の海洋環境が連続的に見られる試料が揃った。サンゴ骨格のSr/Ca比、酸素同位体比変動から約4000年前において海水中の塩分が上昇する現象が見られ、アジアモンスーンの弱体化が起こった可能性が考えられた。乾燥化は東シナ海への河川からの栄養塩流入の減少または、風化の増大を引き起こすと考えられ、海洋の栄養塩分布を変化させる可能性が示唆された。またモンスーンの活動が低下することにより、風および海流による深層から表層への栄養塩の供給量が変化している可能性が示唆された。 昨年度に測定したNanoSIMS測定による幼生サンゴ骨格中の窒素同位体比分布と走査型電子顕微鏡による骨格構造の観察から、サンゴ骨格中の有機物は骨格構造の芯となる部分に濃集していること、また有機物と炭酸塩骨格の境界では、まず初めに有機物の中に粒状の骨片ができ、その後骨片の密度が高くなって、さらにその周りに針状結晶が成長する様子が観察された。この結果から、サンゴ骨格中の有機物はサンゴ骨格の内側に保存されている、あるいは石灰化がされるときに炭酸塩骨格に紛れ込む形で保存されるという2つの存在形態が推定された。いずれもアラゴナイト結晶が有機物を取り囲む形で保存していることが示唆され、サンゴ骨格中の有機物は骨格形成時に結晶間に保存されていることを確かめた。この結果から、サンゴ骨格中の有機物の窒素同位体比は古環境復元指標として利用可能であることが示唆された。
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