研究概要 |
本研究では、クロマグロの筋形成や筋成長の過程を、種々の分子マーカーを用いた組織学的解折で詳細に記載し、各筋肉がどのような発生の系譜を持ち、どのように成長するのか、その詳細を明らかにするとともに、MYIIの発現を指標としたトランスクリプトーム解析で、クロマグロの筋形成や筋成長過程で働く分子ネットワークの全体像を明らかにすることを目的として、実験を進めている。昨年度はクロマグロの筋形成に伴うMYHおよび関連分子の発現パターンの解析のため、次世代シーケンサーを用いてトランスクリプトーム解析を行った。クロマグロのヨコワ3個体の普通筋、表層血合筋、深部血合筋および心筋のよりcDNAライブラリーを作製しIon PGMシーケンサでシーケンスを行った。得られた配列情報のうち、Q20 (evaluation measure of base calls)以上のものがそれぞれ、41.61、21.97、133.81および209.71Mbpで、リード数はそれぞれ、371,727、236,418、1,673,731および2,168,155であった。クロマグロ背側普通筋、表層血合筋、深部血合筋および心筋から得られた全455 Mbpの配列情報を用いて、CLCGenomics Workbenchソフトウェアを用いたde novoアセンブリの結果、23,777個のコンティグが形成された。200 bp以上のコンティグは23,465個あったが、このうち1,834個のコンティグの演繹アミノ酸配列をNCBIのnon-redundantタンパク質データベースに対するBLAST検索に供し、アノテーションを行ったところ、うち855個のコンティグが何らかの既報の配列と相同性を示した。ここにはMYHをコードすると思われるコンティグが24個存在しており、うち一つは既に我々が全長を同定した速筋型のMYH (myhf1)と配列が一致した。また、マイオスタチン、トロポニン、トロポミオシンやα-actinなど筋分化や筋収縮運動に関係する遺伝子が40個存在していた。クロマグロ深部血合筋におけるトランスクリプト一ム解析で得られたコンティグの演繹アミノ酸配列をBLAST検索に供した結果、MYH7bに相当するコンティグが5個得られた。MYH7bは、哺乳類と魚類で報告されている遅筋/心筋型MYHの一つであり、同遺伝子中にある小分子RNAを介し、筋肉のタイプ特異的な遺伝子の転写制御にも関与することが知られている。これらcontigに対し、得られたリードのマッピングを行い、クロマグロ背側普通筋、表層血合筋、深部血合筋および心筋の4部位でMYH7bに相当するコンティグが発現しているかを確認したところ、いずれについても背側普通筋では発現が全く見られなかった。さらに、RT-PCRおよびリアルタイムPCRを行った結果、MYH7bに相当するcontigについて普通筋では転写産物は検出されず、遅筋および心筋に特異的な発現が確認された。また、2個のコンティグは深部血合筋でのみ検出され、深部血合筋の形成との関わりに興味がもたれた。
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