本年度は前年度に引き続き非線形方程式論特に粘性解理論と変分学および非ユークリッド的な距離構造のもとでの方程式について研究し、以下の分野で新たな成果を挙げた。 1. 距離空間上のハミルトン・ヤコビ方程式。ネットワークやフラクタルを含む一般の距離空間上の凸あるいは準凸なハミルトニアンを持つハミルトン・ヤコビ方程式に対してGangboとSwiechにより導入された粘性解の安定性を中心とした研究を行った。結果として一般的な安定性を示し、定常および非定常ハミルトン・ヤコビ方程式の性質を調べ、最終的に空間がコンパクトな場合の解の長時間挙動を正当化した。本研究は計画の距離粘性解理論の構築に関わるもので、計画よりも多くの成果を挙げることができた。 2. 特異拡散方程式。クリスタライン曲率流の研究を動機とする異方的な全変動流について勾配流的解釈と粘性解理論的解釈の関係性について考察した。主な成果としてエネルギー解と粘性解の整合性に関する部分的な結果を得た。また、結果を一般化する過程でエネルギー密度関数が区分的線形の場合を深く考察し、粘性解理論と適合させるためのエネルギー密度関数の新しい近似手法を開発した。本研究はワルシャワ大学のP. Rybka教授を訪問した際に行った。 3. 時間分数階微分方程式。土壌中の移流拡散現象のモデルを動機としてハミルトン・ヤコビ方程式の時間微分がCaputo微分に一般化された場合を考察した。 以上の研究や関連するこれまでの研究は招待講演を引き受けるなどして計画より多い様々な研究集会、国際会議で発表した。多くの研究者からコメントを得て、今後の研究の方向性を決めることができた。
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