研究実績の概要 |
本研究は、近代文学成立期であると同時に近代批評成立期でもある明治10年代後半から明治20年代の時期を対象として、この時期における小説受容の様態を解明し、近代小説受容史の基盤を構築することを目的とする。 本年度は前年度に引き続き、近代小説受容史の研究基盤を構築するため、近代書籍批評目録の作成を行った。『時事新報』、『読売新聞』を対象として書籍批評記事の調査・収集を行った。また、前年度において書籍批評記事の調査・収集を行った『国民之友』、『女学雑誌』、『東洋学芸雑誌』、『出版月評』、『青年文学』、『早稲田文学』については、『国立国会図書館蔵 明治期刊行図書目録』等と照合させることで批評対象書籍の書誌情報の整理を進めた。 また、多面的な視野に基づく近代批評成立期の批評意識及び方法の解明を図るため、「批評と誹毀」(国文学特殊研究〔慶應義塾大学〕、2014・11・29)と題する研究発表を行った。本発表では、前年度に口頭発表を行った「『出版月評』の〈批評〉思想」(出版法制史研究会、2013・12・7)の内容を大幅に増補・改正した上で論文化し、それについて討議を行った。本発表では、批評と誹毀との関係性を考える上で重要なノルマントン号の探検をめぐる訴訟を取り上げた。特に本年度は本訴訟の判事を務めた中橋徳五郎が審理にあたって依拠した「泰西ノ法理」の典拠について具体的に調査を進め、それがA. Underhill, A Summary of the Law of Torts, 3th ed, 1881であることを解明した。本研究によって、近代批評の確立に英米法の批評観の移入が大きな役割を果たしてることが明らかとなった。 さらに、近代小説受容史の観点を取り入れ、新たな近代小説像を提出するため、『近代小説(ノベル)という問い(仮題)』(翰林書房、2015年刊行予定)の執筆作業を進めた。
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