研究概要 |
神経以外の全身でオートファジーを欠損した神経特異的オートファジーレスキューマウス(以下ノックアウトマウスとする)を用い、マウス成体の全身におけるオートファジーの生理学的意義を解析した。当初、全身の臓器においてオートファジーの破綻に起因するオルガネラの異常を解析する予定であったが、スクリーニングの途中でノックアウトマウスは貧血及び鉄欠乏を呈することが観察され、その鉄欠乏はノックアウトマウスの貧血の少なくとも一部であることが観察された。このことより、鉄欠乏の原因に重点を置いて解析を進めることとした。鉄欠乏の原因として1、吸収の低下2、分布の異常3、損失の増加の可能性をそれぞれ調べた。全身の臓器で組織鉄を定量したところ、鉄が異常に沈着した臓器は観察されなかった。また、ノックアウトマウスは明らかな外表出血はなく、便潜血も陰性であった。以上のことから、分布の異常と損失の増加は否定的であった。そのため、現在ノックアウトマウスの鉄欠乏は鉄の吸収異常に起因すると考えている。 次に鉄吸収の低下の可能性を調べた。鉄吸収の抑制的制御として肝臓ホルモンであるヘプシジンが知られるが、ノックアウトマウスでヘプシジンは低下していた。よって、てつきゅうしゅうがか上に抑制されている可能性は否定的であった。一方、鉄吸収の促進的制御として、鉄不足の時に上部小腸上皮で鉄吸収に関連する因子であるDcytb, DMT1, Fpnの発現が亢進することが知られる。mRNAの発現をqPCR法で調べたところ、ノックアウトマウスは鉄欠乏にもかかわらず、これらの因子の発現がコントロールと比較し、同等か低下傾向にあった。このことから、ノックアウトマウスは鉄関連因子の発現不足により鉄の吸収異常を来していることが示唆された。
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