Atg5ノックアウトマウスなどのオートファジー不全マウスは生まれて一日以内に致死となるためマウス成体におけるオートファジーの生理学的意義を解析するには制約が大きかった。本研究ではAtg5ノックアウトマウスに神経特異的プロモーター下でAtg5を発現させることにより神経特異的にオートファジーをレスキューしたマウスを作製した。このマウスは神経以外全身でAtg5を欠損する。この神経特異的Atg5レスキューマウスは新生仔致死を乗り越え、成体まで生き延びることができた。 本年度はこのマウスの全身の臓器を組織学的及び生化学的に解析することでオートファジー不全により起こる組織学的異常と異常タンパク質の蓄積を全身網羅的に解析、臓器間で比較した。神経特異的Atg5レスキューマウスでは肝脾腫、細胞の腫大・空胞変性、パネート細胞の異常、筋肉・脂肪の萎縮など既報告の異常に加え、小腸絨毛・陰窩の形態変化、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、間質性肺炎、筋肉組織における核の増加、雄雌の生殖器の発達不全・生殖細胞の成熟不全、様々な臓器における炎症性変化が観察された。また心臓・肝臓・筋肉において特にユビキチン化タンパク質とオートファジー特異的基質であるp62の蓄積が顕著であることが観察された。さらに、これらの臓器ではp62の蓄積依存的に活性化される転写因子であるNrf2の増加とそのターゲット因子であるNqo1の増加が観察された。以上の結果より、オートファジー依存的な細胞の品質管理の欠損は臓器によりその影響の強さが違う可能性が示唆された。 前年度までの結果から、この神経特異的Atg5レスキューマウスは鉄の吸収不全により鉄欠乏をきたすことが観察されていた。また、その原因として小腸における鉄関連因子の転写制御異常によることが観察されている。これらの結果を前年度までの成果と合わせて論文として投稿した。
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