研究課題
本研究では、プロテオーム中での機能未知タンパク質 (標的タンパク質) 選択的ラベル化を可能とするラベル化試薬 SEAlide-based labeling tag (SEAL-tag) の開発を目的としている。今年度は、前年度に引き続き標的モデルタンパク質としてhuman carbonic anhydrase (hCA) を用いて、当該ラベル化試薬によりラベル化されるアミノ酸残基の同定および細胞内でのhCAの選択的ラベル化について検討を行った。ラベル化されるアミノ酸残基の同定では、137番目のLys選択的にラベル化されていることが明らかとなった。さらにhCA1のX線構造解析データをもとに、そのラベル化残基の妥当性についても計算化学的な観点から検証を加えた。また細胞内でのhCAの選択的ラベル化実験では、今年度は赤血球細胞内在性hCAの選択的ラベル化に取り組んだ。第一段階として赤血球細胞抽出液を用いて内在性hCAのラベル化実験を行った。この結果、抽出液中のhCA選択的ラベル化が可能であることが明らかとなった。続いて、赤血球細胞内でのhCAのラベル化に取り組んだ。細胞内でのhCAのラベル化には細胞膜を透過するSEAL-tagが必要であるとの考えから、細胞膜透過ペプチドを分子内に有するSEAL-tagを設計、合成しラベル化実験を行った。しかし細胞内でのhCAのラベル化は観察されなかった。これはSEAL-tagの細胞膜透過性に起因するものと考察し、再度SEAL-tagの分子設計を変更した。本変更では、SEAL-tagの細胞膜透過性向上を期待し低分子量化に取り組み、低分子量化したSEAL-tagの合成を達成した。続いて当該SEAL-tagを用いて赤血球細胞内でのhCAのラベル化を行ったところ、低効率ながらhCAの選択的ラベル化を確認した。
2: おおむね順調に進展している
申請書の予定では、当該年度はSEAL-tagを用いた天然プロテオーム中での標的タンパク質選択的ラベル化法確立および種々のタグを導入したSEAL-tagの合成、ラベル化実験を行う事で汎用性を検証する計画としていた。汎用性の検証では、ビオチン以外のタグとして蛍光色素であるフルオレセインを選択し、これを導入したSEAL-tagの合成を行った。続いて当該SEAL-tagを用いてhCA1のラベル化を行ったところ、選択的なラベル化が可能であることが明らかとなった。このことよりSEAL-tagにはビオチン以外にも蛍光色素などのタグの導入が可能であることを明らかとした。また天然プロテオーム中での標的タンパク質のラベル化法確立では、赤血球細胞の細胞抽出液中および細胞内でのモデル標的タンパク質hCAのラベル化に取り組み、ラベル化効率に課題を残すもののhCAの選択的ラベル化が可能であることを明らかとした。以上の知見を得たことより、研究はおおむね順調に進展したと判断した。
今後の計画としては、ラベル化効率の向上を指向しSEAL-tagの構造を再度見直すことを計画している。ラベル化効率が低い要因の一つとして、SEAL-tag反応部位のN-sulfanylethylanilide (SEAlide) ユニットの不活性型であるアニリド型から活性型であるチオエステル型へのN-Sアシル基転移反応速度が遅いことに起因するものと考察している。そこでN-Sアシル基転移反応速度の向上を指向しSEAlideユニットの改良を計画している。続いて現在benzensulfonamide-hCAのペアを用いたモデルラベル化実験では、プロテオーム中でのhCA選択的なラベル化が可能であるとの知見を得ている。そこで、これら知見をもとに標的未知生理活性物質を導入したSEAL-tagを用いた細胞内でのラベル化を行い、標的タンパク質の同定および細胞内での当該タンパク質の局在を観察することを計画している。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件)
Tetrahedron
巻: 70 ページ: 5122-5127
10.1016/j.tet.2014.05.110
Org. Biomol. Chem.
巻: 12 ページ: 3821-3826
10.1039/c4ob00622d
Bioorg. Med. Chem.
巻: 22 ページ: 2984-2991
10.1016/j.bmc.2014.04.002