研究課題/領域番号 |
13J07088
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 直之 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 近代木造建築 / 木摺漆喰 / 寸法分析 / 静的加力試験 / 復元力特性 / 力学モデル / 要素実験 / せん断剛性 |
研究実績の概要 |
本年度は,前年度の検討から近代木造建築の主要な水平抵抗要素と考えられた「木摺漆喰壁」に対象を絞り,①実際の建物における壁の構成材の寸法の収集・分析,②既往実験結果の分析に基づく復元力特性のモデル化,力学メカニズムの検討と構成要素(漆喰,釘接合部)に関する解析・要素実験を実施した. ①木摺漆喰壁の寸法分析 近代木造建築(洋風72件)の修理工事報告書を対象とし,構造性能に影響する木摺下地(挽き板による漆喰塗下地)の寸法および取り付け仕様の変遷の分析を行った.結果,近代木造建築の外周壁木摺の主要寸法の変遷(巾狭く,薄く,空きは小さくなる傾向)とともに,平均値では当時・現在とも技術書記載の寸法以上であったこと,木摺の張り方と寸法に対応関係が見られること等を明らかにした. ②木摺漆喰壁の力学メカニズムに関する解析的検討および要素実験 ②-ⅰ)過年度実施した斜め木摺壁の静的加力試験結果に基づくバイリニア・スリップ型の復元力特性モデルを作成し,同仕様の建物の2質点地震応答解析を行うことで,その建物の地震被害と同程度の応答を再現しうることを示した. ②-ⅱ)ⅰ)の実験結果の分析から,木摺壁の主要な抵抗要素として,釘のすべり抵抗,漆喰層自体のせん断抵抗,木摺と漆喰の付着,木摺空きへ食い込んだ漆喰の圧縮・せん断の影響があることが推定された.これらを考慮した力学モデル構築の基礎段階として,本年度は釘接合部のせん断抵抗について,面材耐力壁の詳細計算法を準用し,弾性範囲の斜め木摺漆喰壁の荷重変形関係の推定式の誘導を行った.また,木摺空きへ食い込んだ漆喰のせん断剛性の発現を評価するため,実験に使用したものと同仕様の漆喰の一軸圧縮実験を実施し,漆喰各層(6層で構成)の最大圧縮応力度および剛性を明らかにした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究内容のうち,木摺漆喰壁の力学システムの解明に関しては,当初予定では年度内に要素実験を全て実施する予定であった.しかし,前年度以前の実験結果を元にした力学モデルを検討した結果,当初は付加的な要素であると推定していた木摺空きの漆喰のせん断抵抗の寄与が大きいと推定された.そのため,漆喰の基礎的な材料特性の把握を目的とした圧縮実験を実施した.研究計画は当初の計画より遅れているが,力学システムを解析的に検討可能なレベルまで明らかにするという研究目的上からは,有用な結果が得られたと考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降は,本年度に継続して,木摺漆喰壁の力学モデル構築に必要な要素実験として,釘接合部,漆喰の一面せん断,木摺の向きを変えた壁体の静的加力試験等を実施し,木摺漆喰壁の荷重変形関係評価式の構築を行う.また,本年度までの成果である,近代木造建築の構法変遷,壁の構成材料の寸法変遷の分析に上記の木摺壁の力学システムの評価方法を適用し,近代木造建築の主要な構造要素の構法的変化を構造性能の観点から位置づけ,まとめることを計画している.
|