本研究は,近代木造建築構法の変遷を文献・実測調査等に基づいて類型化し,これを構造性能の観点から実験・解析的に検証し,位置づけを行うことを目的としている. 本年度は,前年度までの研究により近代木造建築の中でも主要な耐力要素の一つである壁体の内,代表的な事例であった「木摺漆喰壁」について,追加実験,解析によって構造性能の定量的評価手法を構築した.また,前年度までに実施した近代木造建築の構法分析の結果と併せ,近代木造建築の耐力壁構法の変遷を構造的な観点から検討した. ①木摺漆喰の水平抵抗要素の追加実験:前年度までにその影響を推定した木摺漆喰の水平抵抗要素(釘接合部,木摺空きの漆喰のせん断,漆喰層自体のせん断・圧縮)の追加要素実験を実施し,木摺漆喰壁の水平耐力要素の構造性能に関する定量的なデータを収集・整理した.また,四周の固定など,大壁と異なる特徴を持つ真壁を対象とした実大静的加力試験を実施し,実大壁における挙動を把握した. ③木摺漆喰壁の水平耐力推定モデルの構築:以上の結果をもとに,木摺‐釘接合部のすべり抵抗と,木摺空きの漆喰のせん断性能の評価に基づく力学モデルを作成し,変形初期における漆喰の剛性発現,最大耐力記録後の釘接合部による耐力増加等の特徴的な傾向を再現することが可能となった.しかし,漆喰による剛性発現に関しては,実大試験結果より耐力,剛性共に高く評価されており.これについては,漆喰の材料強度の経時変化や,壁体における漆喰の固定度を考慮した低減手法を検討することで改良可能であると考えている. ④近代木造建築の壁構法の変遷の構造的観点からの再検討:木摺漆喰壁の構成・寸法の変化を上記の解析モデルによって分析し,明治から戦前期にかけて起こった壁構法の構法変遷を構造的な観点から再検討し,位置づけを行った. また本年度までの結果を次年度に学位論文として提出する予定で執筆を進めている.
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