研究課題/領域番号 |
13J07091
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古橋 賢一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 微細藻類 / 炭化水素 / ミルキング |
研究概要 |
当研究は、細胞内で生産した炭化水素を細胞間物質に放出し蓄積する微細緑藻 Botryococcus brauniiを用いて、希釈海水培地下での浸透圧ストレス培養及び、藻体を殺さずに炭化水素のみ抽出し再培養を行うミルキングという手法を使用した培養から回収までの高効率炭化水素製造プロセスの構築及び評価を目的としている。これまでに0.9%濃度の希釈海水培地下で、淡水性緑藻であるB. brauniiを培養することにより、前処理を経ることなく、藻体にヘキサンを直接混合するだけで効率的に炭化水素を回収できることを発見した。しかし、この希釈海水培地下では炭化水素回収性が向上する一方、増殖速度が低下する課題が明らかとなった。この成果は本年度学術雑誌Plos Oneに掲載された。本年度は、主に炭化水素生産および回収に最も適した浸透圧の検討を中心に研究を行った。 B. brauniiを様々な塩濃度下の培地で培養を行った。その結果、0.3%濃度の希釈海水培地下で培養された藻体は、淡水性培地である改変Chul3培地下のものと比較しても、増殖速度に変化はなかった。炭化水素回収性の観点からは、0.3%濃度の希釈海水培地下で培養された藻体においても、大きく向上した。0.3%より濃度を上げると炭化水素回収性はさらに向上するものの、増殖速度は低下した。また希釈海水培地下では粒径が3倍以上になり、コロニーサイズの大幅な上昇が確認された。このことは培養槽内部の光透過性を上げ、コンタミを防ぐための培養濃度をより高濃度にしたオペレーションの実現可能性を示唆している。さらに、B. brauniiが培地に分泌する分泌多糖量が塩濃度の上昇とともに減少した。このことは、塩ストレスに対して糖類を浸透圧調整剤として用い、同じく多糖類を主として構成されている細胞間物質の結合が弱まり、炭化水素の易回収性に繋がっている可能性を示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付計画書では、本年度は炭化水素生産および回収に最も適した浸透圧の検討と同時に、ミルキングの最適方法の検討を行うと述べた。炭化水素生産および回収に最も適した浸透圧という事項に関しては、最適な条件下を見つけることに成功し、培養・回収に有利に働くであろうコロニーサイズの上昇という現象も発見された。しかし、ミルキングの最適方法に関しては、様々な方法を試したが、炭化水素の圧搾や溶媒回収した後のB. brauniiの生存率があまり高くはなかった。そのため本年度に関しては、②おおむね順調に進展しているという自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、B. brauniiの希釈海水培地下における炭化水素生産システムのエネルギー収支の評価を行っていく。濾過実験および脱水ケーキを用いた炭化水素抽出のラボ実験を行うことで、基礎データをとる。これらの実験結果と希釈海水培地下でのB. brauniiの増殖速度の結果を統合させて、培養→濃縮・脱水→抽出→溶媒分離に必要なエネルギー収支を計算して、既存のプロセスと比較することによりその優位性の確認を行う。ミルキングに関しては、来年度よりは抽出前に事前濃縮することにより溶媒の接触時間を減らしたり、抽出後に減圧し有害な溶媒を蒸発させてから再培養を行う等といった実験を行う予定である。希釈海水培地下における炭化水素生産システムのエネルギー収支の評価と同時に、ミルキングの検討は来年度も引き続き行っていく予定である。
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