本年度は,炭化水素回収性が希釈海水培地下で培養すると向上するメカニズムを調べ,また培養から収穫・濃縮・脱水そして溶媒抽出までを考慮した希釈海水培養を用いた炭化水素生産システムと,淡水培養した藻体を溶媒抽出する前に加熱もしくは乾燥する既存の炭化水素生産システムを比較して,希釈海水培養が炭化水素生産システムのエネルギー収支に与える影響を評価した. 炭化水素回収性が希釈海水培地下で培養すると向上するメカニズムに関して,急速凍結および凍結置換法を用いた電子顕微鏡観察を行うことで,コロニー表面の繊維状物質の変化を高倍率で撮影することに成功し,炭化水素回収性が向上している藻体ではコロニー表面の繊維状物質が消失もしくは繊維密度が低下していることが確認された.また同様に炭化水素回収性が向上する,溶媒抽出前に90℃で加熱処理した藻体に関しても,電子顕微鏡観察を行ったところ,繊維状物質がコロニー表面から消失しており,熱水中に繊維状物質が溶出したことが強く示唆された.本研究の結果からB.brauniiが炭化水素を細胞内ではなく細胞外マトリクスに蓄積するにも関わらず,容易に有機溶媒抽出できない理由は,コロニー全体を覆っている主に糖類からなるColony sheathと呼ばれている繊維層が親水的な層として働き,コロニー内部への有機溶媒の侵入を妨げているためであることが考えられた. また,炭化水素生産システムのエネルギー収支に関して,溶媒抽出前に加熱・乾燥処理する既存のB. brauniiからの炭化水素生産システムのEPRは,それぞれ1.9,1.3であった.一方で希釈海水培養を用いた炭化水素生産システムの場合,EPRは2.2となり,希釈海水培養によりB. brauniiからの炭化水素生産システムのエネルギー収支は向上することが確認された.
|