本研究では,ロボットを用いた顕微鏡下微細手術において良好な手術成績が得られるシステムの構築を目的としている.本年度は,顕微鏡下微細手術の動作の中でも難度が高い吻合動作を対象とし,最も臓器に負荷をかける恐れのある運針動作において,臓器にかける負荷を抑制するようなマスタ・スレーブ型手術支援ロボットの制御手法の研究を行った. 運針動作では,縫合糸を臓器にかけるために縫合針を臓器に対して刺入する.このとき,縫合針と臓器の接触点となる針穴に力がかかると臓器を損傷する恐れがある.そこで,提案手法では運針動作中に縫合針が針穴から遠ざかりにくくなるように,医師がロボットに入力した動作を自動的に調整することで,針穴の位置の変位を抑制する.なお,支援の強度はパラメータにより変更が可能である.また,このような支援を利用する場合のマスタ・スレーブの姿勢の制御手法の検討も行った.具体的には,マスタ・マニピュレータとスレーブ・マニピュレータの姿勢を一致させる絶対制御で姿勢の制御を行う場合と,動作量のみを反映させる相対制御に切り替えを行う場合で針穴の変位に変化があるかを検証した. 評価実験は,当初研究室で開発を行っている手術支援ロボットを用いて,センサ等を用いた評価系を構築する予定であったが,手術支援ロボットの自重によるたわみ等に起因する機構学誤差により正しく評価を行うことができない可能性があったため,コンピュータ上で動作する運針用のシミュレータを構築して実験を行った.その結果,絶対制御のみを用いた場合には完全に動作に拘束をかけるような支援以外では効果が得られない一方で,切り替えを行った場合は支援の強度を強くすることで針穴の変位を抑制可能であることが確認された. 本年度は,上記の運針支援に関する研究に加えて初年度に行った顕微鏡画像に基づく術具の状態推定手法に関しても,手法の改善を行いその効果を確認した.
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