研究課題/領域番号 |
13J07114
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
西川 純司 甲南女子大学, 人文科学総合研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | インフラストラクチャー / 都市計画 / 統治性 / 植民地都市 / 居住空間 / アクターネットワーク論 / 歴史社会学 |
研究概要 |
本研究の目的は、本国および植民地都市の住宅における窓ガラスの使用実践の分析から、戦前「日本」の居住空間がトランスナショナルなインフラストラクチャーにもとづく統治実践のもとで成立していたことを明らかにすることにある。本年度の研究実施状況は以下のとおりである。 (1)戦前の本国における都市統治の実践と窓ガラスの使用の関係を解明するために、内務官僚であった池田宏の都市計画論を分析した。分析の結果、都市計画が採光という衛生面を一つの軸に統治の視点から構想されており、窓ガラスもそうした文脈で理解されていたことが明らかになった。これは、統治の観点から戦前日本の都市インフラを分析した先駆的事例としての意義が認められる。この成果は、『ソシオロジ』誌に投稿され掲載された。 (2)戦前の植民地都市であったソウル(京城)および台北での現地調査を実施した。まず、国会図書館での資料調査および文献研究をもとに、植民地都市の形成過程や地域構造を確認した。その後、現地で日本統治時代の建築や住宅を観察した。とりわけ、台北では現存する多くの日本家屋を訪れることができ、今後の調査対象になりうることが確認できた。 (3)分析枠組みの精緻化をはかるために、文献研究および海外での研究動向の確認を行った。まず、アクターネットワーク論や科学社会学に関する文献精読を通じて、モノ・物質を理論的に考察するための新たな知見を得た。近年の英国社会学では、こうした理論的枠組みは統治性分析にも用いられており、本研究におけるインフラの分析にも応用可能であることが確かめられた。成果の一部は、一橋大学で開催された研究会にて口頭発表され、他の研究者とも問題意識の共有がなされた。また、欧米におけるインフラ研究プロジェクトであるTensions of Europeの研究会に参加し、越境するインフラに関する研究報告を受け、研究者と議論するなど、当該分野における研究動向の確認を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度実施予定であったのは、研究目的(1)および(2)であった。研究目的(1)本国における都市統治の実践と窓ガラス使用の関係の解明については、その研究成果を学術論文として発表したことから順調に進展していると判断できる。研究目的(2)植民地都市における窓ガラス使用実態の調査に関しては、研究実施計画どおり2都市での現地調査は実施できたものの、準備不足もあり史料調査が十分にはできなかった。そのほか、方法論の検討に関しては、文献研究および海外研究会参加を通して、一定以上の成果が得られた。これらを総合的に見て、研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究目的のうち(2)および(3)を中心に進めていく。(2)の植民地都市を対象とした調査については、残る1都市での現地調査を実施する。その際、国内での史料調査を通して十分な準備を行う。加えて、1年目の調査結果を検討し、3年目に予定している補充調査に向けての準備も進める。また、(3)の技術者の越境的な移動という点を視野に入れて、国内での史料調査も継続して実施する。 さらに、引き続き方法論の検討も並行して進めていく。科学や技術の社会学などを対象にした文献研究だけなく、欧米で開催される研究会への参加を通して研究動向の把握に努める。 これらを通して、本国都市と植民地都市とを対象にしたそれまでの分析結果をまとめ、成果を発表することを目指す。
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