本研究の目的は、本国および植民地都市の住宅における窓ガラスの使用実践の分析から、戦前「日本」の居住空間がトランスナショナルなインフラストラクチャーにもとづく統治実践のもとで成立していたことを明らかにすることにある。本年度の研究成果は以下のとおりである。 (1)近代日本の公衆衛生を主題としてきた先行研究の整理を行い、本研究がもつ位置づけを検討した。具体的には、医学史・制度史、歴史研究における衛生史、統治性研究の3つの議論を整理し、公衆衛生のなかでも環境衛生やそこで用いられる科学技術には、これまで十分な関心が向けられてこなかったことを確かめた。また、先行研究のなかには、1980年代後半以降に「帝国医療」を問題設定とした公衆衛生研究が登場し、近代アジアでの帝国主義の展開を医療や公衆衛生との関連で捉え、植民地統治と衛生事業との連関をみようとする試みがあったことを確認した。本研究は、こうした先行研究に対して、インフラという観点から分析を加える新たな試みとして位置づけられる。 (2)文献研究を通じて、分析枠組みの整理および精緻化を図った。とりわけ、技術の社会構築主義、アクターネットワーク論および科学実践論、統治性研究の3つのアプローチを検討し、整理した。そのうえで、統治性研究による権力分析の視座がインフラを分析する際に有効であることを確かめた。また、海外におけるインフラ研究プロジェクトの一つであるCRESC(Centre for Research on Socio-Cultural Change)のAnnual Conferenceに参加し、最新の研究動向を把握した。 (3)前年度に実施した現地調査に関する資料を整理し、分析を進めた。また、さらなる現地調査のための準備として、文献研究を行うことでおおまかな調査計画を立てた。
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