本研究では、GATA1アミノ末端側亜鉛フィンガー(N-フィンガー)生理的役割をDNA結合能の観点から解析し、多様なDNA結合様式の選択的利用により調節される、GATA1標的遺伝子発現制御メカニズムを実証することを目的とした。 第一に、網羅的ChIP-Seq解析による血球系細胞ゲノム上でのDNA結合能を解析した。ゲノム全域の回文状GATA配列に対し、N-フィンガー変異GATA1において結合能低下傾向が認められることを、生物情報学的に明らかにした。また単一GATA配列と回文状GATA配列が隣接する領域では、単一GATA配列への正常な結合が保たれていることで、領域全体として結合能が低下しない傾向にあることが、新たに明らかとなった。この結果は、これまでのマウス解析で限定的ないくつかのGATA1標的遺伝子座において検出されたDNA結合特性を、ゲノムレベルにまで拡大して適用できることを意味する。 第二に、ルシフェラーゼレポーター解析による、DNA結合能の差異が転写活性化能に与える影響を解析した。回文状GATA配列を有するレポーター遺伝子をN-フィンガー変異GATA1により誘導した場合、GATA1の発現量および発現時間に依存したレポーター活性の上昇が、野生型GATA1により誘導した場合と比較して低下することがわかった。一方で単一GATA配列を有するレポーター遺伝子では、N-フィンガー変異GATA1であっても野生型GATA1と同等の転写活性化能を示すことがわかった。この結果は、多様なGATA配列に対しそれぞれ適切な結合様式が形成されることが、GATA1の転写活性化能を直接的に支えていることを意味する。 以上の知見は、これまでの生化学解析から得られたGATA1のDNA結合特性をより一般化し、マウス個体での標的遺伝子発現制御および血球分化制御の分子メカニズムと連結させる、重要な研究成果である。
|