本年度は昨年と同様にソーシャルネットワークの一つである道路交通網を題材として 1.「昨年度に提案した道路交通網の統計的計算モデルの情報統計力学に基づく統計的性能評価」,2.「より現実的な問題設定への統計的計算モデルの改良」の2点とより一般的なネットワークの問題として,3.「頂点情報を考慮したネットワークのコミュニティー抽出」の計3点について研究を行った. 交通センサーには道路に固定されたセンサーの他に車載センサーなどがあり,実際の交通状況では交通データが収集できる道路の割合が時間によって変化するため,未観測道路の交通データを予測する統計的計算モデルを適用するにあたっては,予測アルゴリズムがデータを観測できる道路の割合に対して統計的にどの程度の予測が可能であるかを明らかにすることが必要となる.1.の研究では前年に提案した道路交通網の統計的計算モデルに対し情報統計力学的な解析を行い,統計的計算モデルの統計的性能評価を行うことに成功した.また,2.の研究では前年提案した統計的計算モデルをより現実的な問題設定に対して拡張し,ある一定時間に収集された部分的な欠損を持つデータセットから直接統計的計算モデルのモデルパラメータを推定する枠組みを提案した.このモデルでは使用する交通データを交通密度から速度データに変更ており,実際の道路交通網で観測できる交通データは速度データの場合が圧倒的に多いため,より現実な問題設定に即したモデルとなっている.また,3.の研究では頂点情報を考慮してネットワークのコミュニティ構造を抽出するアルゴリズムの開発を行った.このアルゴリズムはネットワークの構造だけでなくネットワーク上の情報も考慮してネットワークを分割するものであり,将来的には交通データと道路の構造から渋滞部分を予測する等の実際の交通問題への応用を目指している.
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