研究課題/領域番号 |
13J07264
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
津山 淳 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
|
キーワード | 神経幹細胞 / グリア発生 / MicroRNA / アストロサイト |
研究概要 |
哺乳類神経幹細胞は発生過程においてニューロンへのみ分化する初期型神経幹細胞から、グリアへの分化能を持つ後期型神経幹細胞へと性質を変化させる。我々はこれまでにグリア分化抑制効果を示す初期型神経幹細胞特異的なmicroRNAを同定している。同定したmicroRNAの発生期における発現を明らかにするため、特異性の高いlocked nucleic acidプローブを用いたin situ hybridizationおよびqRT-PCRによって、大脳皮質神経幹細胞において同定したmicroRNAの神経発生初期特異的な発現が認められた。 microRNAの機能をin vivoで解析するために、レンチウイルスベクター用いてマウス胎仔脳にmicroRNAを導入し解析を行った。その結果、生後14日においてmicro脳A強制発現細胞はin vivoグリアに分化する細胞の割合が減少し、ニューロンへ分化する細胞数が増加していた。 しかしながら、電気穿孔法によってmicroRNAをマウス胎仔脳に導入し48時間後に解析を行ったところ、神経新生マーカーであるTbr2陽性細胞の割合はほとんど変化していなかった。このことから生後のニューロン数の増加はニューロン産生期間が延長したことに起因すると考えられた。 また、マイクロアレイによるmicroRNA強制発現神経幹細胞の遺伝子プロファイルの解析から2つの転写因子を標的候補遺伝子として同定した。microlRNAを発現させた胎仔脳において標的候補遺伝子の免疫染色を行ったところ、microRNAが導入された細胞では標的候補遺伝子の発現が減少していることが示された。microRNA標的候補因子群の3'UTRに存在するmicroRNA結合予測部位に変異を入れたものと野生型のものをそれぞれルシフェラーゼ遺伝子に結合させ、レポーターアッセイを行ったところmicroRNA標的配列依存的な抑制効果が認められた。さらに、microRAによるグリア分化抑制効果を標的因子の強制発現によってレスキューできることを見出した。これらの結果から神経幹細胞の分化ポテンシャルの変化にはmicroRNAと転写因子による協調的な作用があることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体内における発現パターンおよび機能解析からmicroRNAがグリア分化を抑制しているしているという結果を得ることができた。またmicroRNAによるグリア分化抑制効果をレスキュー可能な標的因子を同定することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度はmicroRNAの機能阻害実験およびヒト神経幹細胞における発生期特異的な制御因子の解析を試みる。機能抑制実験を様々なツールで検討したところSynthetic miRNA Inhibitors (SIGMA)が最も強くmicroRNAの働きを阻害できることが分かったので、これを用いてin vitroおよびin vivoでmicroRNAの機能抑制実験を行う。 ヒト神経幹細胞は培養環境下では分化ポテンシャルは変化しにくく、領域は変化してしまうという現象が見られることが最近分かってきた。それゆえ通常の培養法を用いてヒトの神経幹細胞を「発生期特異的」、また領域は「大脳皮質」のものを用意するのは難しい。そこで最近報告された大脳皮質オルガノイド(Kadoshima et al, 2013, PNAS)の系を立ち上げ、オルガノイド由来ヒト神経幹細胞が時期依存的にどのような分化ポテンシャルを有しているかの検討およびヒトとマウスのNSCsにおける遺伝子制御機構の比較解析を行う。
|