研究課題
CVD法は大面積化可能なグラフェンの合成方法であるが、従来のCVDグラフェンは多結晶構造を有しており、ドメイン境界における物性評価が必要とされる。本研究では、CVDグラフェンのドメイン構造(特にドメイン境界)がキャリア輸送特性および光物性に及ぼす影響について検討を行った。・キャリア輸送特性 :CVDグラフェンのドメイン境界にまたがるように電界効果トランジスタ(FET)を作製し、I-V特性を評価した。CVDグラフェンは、欠陥由来のラマンDバンドが弱く高品質であったが、単一ドメイン内では20,000㎝^2/Vsが得られたのに対し、ドメイン境界では10,000㎝^2/Vsと著しい移動度の低下がみられた。さらに温度依存性から、単一ドメイン内ではフォノン散乱が支配的なのに対し、ドメイン境界では欠陥の存在を示唆する不純物散乱が優勢であるということが分かり、キャリア散乱のメカニズムが議論できた。・光物性 :グラフェンのドメイン境界が表面増強ラマン分光(SERS)の感度に与える影響を調査した。グラフェンエッジにおける検出強度の増大が著しく、ドメイン境界における検出感度増大の効果が低いことが分かった。これはドメイン境界における構造的乱れがエッジ部と比較して少ないことが示唆されるが、構造の違いはグラフェン成長だけでなく、SERS測定のための転写の影響も考えられ、さらに詳細な検討が必要である。その他に、分子によるグラフェンの機能化、およびグラフェンを基盤としたフレキシブルデバイスへの応用という観点から、グラフェン上におけるπ共役系分子(塩化アルミフタロシアニン(ClAlPc)分子)の自己組織化に関する検討も行った。ClAlPc分子はグラフェン上で正方形の単位格子を持って規則的に配列することが分かった。また、その単位格子の方位はCVDグラフェンのドメインの方位を反映して回転することが示唆された。これらの結果よりCVDグラフェンはπ共役系分子の自己組織化テンプレートとして有効であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
研究実施計画にはCVD法によって合成したグラフェンのドメイン境界における物性評価を、キャリア輸送特性、機械的強度, 光物性と3点挙げていたが、そのうち2点についてのみ達成できており、加えて、前年度より研究を取組んでいたテーマ「グラフェン上におけるπ共役系分子の自己組織化」について議論を進め、学術論文としてまとめることができたため。
近年、グラフェン分野は非常に展開が競争が激しく、当初2年目に計画していた「バンドギャップエンジニアリングを目指したグラフェン/hBN複合材料の合成」についてはすでに他の研究グループからの報告がなされ始めている。そのため、グラフェンとhBNだけに留まらず、他の二次元薄膜(カルコゲナイド系薄膜、酸化物薄膜)にも研究対象を広げ、原子薄膜を組み合わせたヘテロ接合またはヘテロ積層材料につついて、エレクトロニクス応用を目指した新規物性制御と評価に取り組んでいく。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (7件) 備考 (2件)
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http://nano.cm.kyushu-u.ac.jp/AGO/indexago.html
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