平成26年度は、代数体のアーベル拡大に付随する部分ゼータ関数の値についてのザギエ氏の予想の精密化の研究を進めた。具体的には、ザギエ氏が虚2次体のアーベル拡大の部分ゼータ関数の正整数点での値の精密化として定義した量が新谷L関数の負整数点での偏微分値と本質的に一致することを示した。これによって複素素点が一つであるような代数体の適当な条件を満たすアーベル拡大の場合にザギエ氏の定義した精密版の部分ゼータ値を定義し、予想を定式化した。このようなゼータ値の精密化は、多変数の新谷L関数の研究によって系統的に理解が進んできており、古典的な部分ゼータ値からは得られない数論的情報を含むため非常に重要と考えられる。 また新谷L関数の研究において、代数的な扇から新谷L関数を対応付けるために新谷コサイクルが有用である。新谷コサイクルはこれまで総実な代数体の場合にのみ知られており、同様の方法は複素素点を持つ代数体に適用できない。広瀬氏(京都大学)との共同研究において、非常に一般的な設定からスタートすることで、一般の代数体の場合に有効な新谷コサイクルを構成する方法を考案した。この方法は総実代数体の場合にも、既知のものを含むより広い新谷コサイクルのクラスを与える。 新谷L関数は次数が1の場合古典的なフルビッツレルヒゼータ関数に他ならない。川島氏(大阪大学)、広瀬氏(京都大学)との共同研究で、多重対数関数の特殊値の無理性に関するニキーシン氏の結果を、複数のフルビッツレルヒゼータ関数値が張るQベクトル空間の次元の下からの評価へと一般化した。ここで用いた手法は比較的汎用性が高く類似した他の問題に対しても応用が期待できるため、意義深いと考えられる。
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