研究課題/領域番号 |
13J07368
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
信田 尚毅 東京工業大学, 総合理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 表面修飾 / ポリマーブラシ / 有機電気化学 / バイポーラ電気化学 / 傾斜材料 / ラジカル重合 / 精密重合 |
研究実績の概要 |
本研究は、外部電場中で分極した導体をワイヤレス電極として用いるバイポーラ電気化学に基づき、機能性材料の創出を目的としている。バイポーラ電極は同一面内に陽陰極面を有し、それゆえ表面には電位勾配を生じている。この電位勾配を他の材料に転写することで、これまでには作成することが難しかった機能性傾斜表面を簡便に作成することができる。 原子移動ラジカル重合(ATRP)は、Cu(I)を触媒に用いるリビングラジカル重合法である。Cu(I)は空気に不安定であるためCu(II)を系中で還元して重合に用いる方法が知られるが、近年電解還元を用いることでリビング重合系を簡便に制御する手法(eATRP)が報告されている。我々はこの手法に着目し、バイポーラ電極上に生じる電位勾配中での触媒の濃度勾配を利用した表面開始eATRP法の開発を着想した。重合開始剤はガラス上にアルコキシシランの重縮合により製膜し、グラッシーカーボン(GC)電極をバイポーラ電極として用いた。ビニルモノマー(3.2 M)、水/メタノール混合溶媒、触媒源である塩化銅(II)、配位子10 mMを加え、これを電解液とした。GC板をガラス基板に数百μメートル離して設置し、電解を行ったところ、銅触媒の傾斜的な発生に伴いガラス基板状からポリマーが成長していることを確認した。さらに得られたポリマーブラシはガラス上でその高さを徐々に変化させ、なだらかな傾斜形状を示す確認された。本系には様々な極性のモノマーが適用可能であることも示され、簡便でありながら汎用性の高い傾斜ポリマーブラシ作成法を確立することに成功した。さらに本系を応用することで、平成27年度の研究計画としていた「ポリマーブラシのパターニング」にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度のポリマーブラシ合成の知見を活かし、オリジナリティの高い傾斜ポリマーブラシ創成法の開発に成功した。重合速度を支配する因子の解析や、モノマーの適用範囲の検討といった本系の基礎的な知見の蓄積に加え、本系を応用したポリマーブラシパターニングにも成功している。特にバイポーラ電気化学を利用したポリマーブラシのパターニングは平成27年度の研究計画を先取りした研究内容であり、平成26年度の本研究の予想以上の進展を示している。また、ここに示した研究成果は既に論文にまとめ、化学系のトップジャーナルであるAngewandte Chemie International Edition誌に掲載され、さらにHot Paper、フロントカバーに選出されるほど注目を集めた。以上の点より、本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、申請時には平成26年度に実施予定であった「共役系傾斜ポリマーブラシ」の合成に挑戦する。共役系ポリマーは、芳香環が連結された高分子であり、半導体/導体特性を示すことから現在でも盛んに研究されている有機材料である。共役系ポリマーブラシはこれまでにも報告例はあるものの、いまだ積極的に機能性材料に用いた例は少ない。我々はこれまでに研究から得た「共役系ポリマー」と「有機電解合成」の知見を用い、共役系ポリマーブラシを用いた新規材料合成に挑戦する。特に申請者がこれまでに取り組んできた傾斜ポリマーブラシに共役系ポリマーを用いることで、従来法では精密な合成が困難であった半導体特性が傾斜的に変化する機能性表面が得られると考えられる。膜厚測定や紫外可視吸収スペクトル測定などの基礎的な測定による表面の物性評価に加え、導電性や電荷移動特性の詳細な解析により、傾斜ポリマーブラシという特殊な系中での電子(電荷)移動の挙動を考察する。
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