研究課題/領域番号 |
13J07387
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
島崎 佑也 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | グラフェン / バレーホール効果 / バレー流 / 非局所輸送 / 国際研究者交流 / アメリカ |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、本年度はクーパー対分離の手段として検討しているバレーホール効果の実証を目標として研究を進めた。前年度はデュアルゲート構造の二層グラフェンにおいて、電場により空間反転対称性を破ることで非局所抵抗の検出に成功した。当該年度はこの非局所抵抗がバレーホール効果に起因していることを実証するために実験結果のさらなる解析と理論モデルの構築、測定系の改善、再現性の確認を行った。 空間反転対称性を破った二層グラフェンにおいて想定している内因性バレーホール効果の場合には、バンドギャップ内においてもバレーホール伝導度が生じるために、バレーホール角が大きくなると考えられる。そこで従来の非局所輸送モデルを一般のバレーホール角に拡張した。バレーホール角の小さい領域では非局所抵抗は抵抗率の3乗に比例し、バレーホール角の大きい領域では非局所抵抗は抵抗率に比例することが判明した。前年度の測定結果においても3乗のスケーリングが確認されており、実験結果を再現する。3乗のスケーリングは他の非局所輸送の機構からは説明することができず、非局所輸送がバレーホール効果に起因していることを強く示唆している。また別のデバイスにおいても3乗のスケーリングが再現された。 当該年度は世界で初めて電気的に空間反転対称性を破った二層グラフェンにおいてバレーホール効果の実証に成功した。バレーホール効果とその逆効果を用いることで純バレー流を電気的に生成・検出することが可能となる。クーパー対分離への応用のみならず、これはバレー自由度を情報処理に利用するバレートロニクスと呼ばれる新しい分野における基本要素となる重要な成果である。 また当該年度末より米国Harvard Universityに滞在して、エッジコンタクト技術の習得を目標として共同研究を進めている。これにより試料作成の歩留まりの向上、さらなる品質の向上が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は当初の計画でクーパー対分離の手法として提案していた鏡面アンドレーエフ反射の実証から予定を変更した。前年度に新たに分離の手法としてバレーホール効果を提案し、バレーホール効果の実証へ向けて研究を進め、当該年度にその実証に成功した。バレーホール効果は未解明な点の多いトポロジカル輸送の一つであると同時に、バレー自由度を情報処理に利用するバレートロニクス素子の基礎ともなる物理現象であり、今後多くの研究の派生が期待される。 バレーホール効果については当該年度中に単層二硫化モリブデン、単層グラフェン/六方晶窒化ホウ素超格子それぞれにおいて他グループより報告がなされたばかりである。二硫化モリブデンと比較するとグラフェンは結晶欠陥が少ないためにバレー緩和長が長く有用な系である。また従来の報告はいずれも構造的に空間反転対称性を破ることでバレーホール効果を実現している。一方で二層グラフェンにおいては電気的に空間反転対称性を破ることでバレーホール効果を実現でき、高い制御性と拡張性を有している。また当初クーパー対分離の手法として計画していた鏡面アンドレーエフ反射と比較すると、バレーホール効果は移動度15,000cm^2/Vs程度の試料の品質でも実現が可能であることからクーパー対分離の実現にはより有用な手法であると考えられる。 当該年度は当初の計画以上に有用でインパクトの大きい成果を上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
内因性バレーホール効果はグラフェンのトポロジカルな性質に起因しており微視的メカニズムについては理論的にも未解明な部分が多い。そこでまずはバレーホール効果の微視的なメカニズムの実験的な解明を行う。バレー緩和機構や多層グラフェンにおける層数、スタッキング依存性について調査を行うことで新たな知見が得られると考えられる。得られた結果を基にバレーホール効果によるクーパー対分離の描像を明らかにし、適切な実験条件を見出す。さらにはバレーホール効果を利用したクーパー対分離を目指す予定である。
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