研究課題/領域番号 |
13J07388
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
レ デゥックアイン 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 強磁性半導体 / 電気的な磁性制御 / 波動関数工学 / スピンフィルタ |
研究実績の概要 |
① (In,Fe)Asの強磁性はキャリア電子と局在スピンの相互作用によって誘起されると考えられる。このため、トランジスタ構造においてキャリア特性を制御することによって磁性を温度一定のまま制御することが原理的に可能である。これまでInAs/(In,Fe)As/InAs三層構造の量子井戸において電気的手段による波動関数と(In,Fe)As層の重なりを変化させることで、キュリー温度(TC)を大きく低下すること(最大の変化率は-42%)に成功した。本実験ではInAs/(In,Fe)As/InAs量子井戸構造を適切に設計することにより同じ波動関数工学方法で電子濃度を変化させずにTCの増大を実現することに成功した。また、TCの変化を2次元量子井戸の平均場Zener理論によって定量的に説明することができた。この特徴は強磁性半導体のデバイス応用において大変有用である。
② 新規Feベース強磁性半導体(Al,Fe)Sbの結晶成長および伝導特性と磁気特性の評価をした。InAs, AlSb, GaSbは格子定数が近く、そのヘテロ構造が容易に作製できる。Feを添加しAlSb, GaSbでも強磁性半導体が作れれば、これらの組み合わせで様々なスピンデバイスの作製が期待できる。(Ga,Fe)Sbはp型電極として、(Al,Fe)Sbは強磁性バリアーとして機能できる。本実験では(Al,Fe)Sbの結晶を低温分子線エピタキシー法よりGaAs(001)基板上に作製した。成長中の反射高速電子線回折(RHEED)像、高分解透過電子顕微鏡(TEM)により10%Feまで添加した(Al,Fe)Sbは閃亜鉛鉱構造を保つことが分かった。また磁気円二色性測定と磁化測定よりFe濃度が10%まで添加した(Al,Fe)Sbは真性強磁性半導体になることが分かった。これは磁性原子を添加したAl-V系で初めての強磁性半導体になる例である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では第1年次にn型強磁性半導体(FMS)(In,Fe)Asの電気的な磁性変調の実現かつスピン江崎ダイオードの作製、第2年次に(Ga,Fe)Sbなど、他のFeベースFMSの開発を目指した。(In,Fe)Asの磁性変調実験では磁性変調を実現しただけでなく、由来方法より超高速、低消費電力の波動関数工学法の実現可能性も示した。この内容は計画以上に発展した。しかし、(In,Fe)Asベースのスピン江崎ダイオード作製の内容は計画より遅れている。また、第2年次には(Ga,Fe)Sbだけでなく、(Al,Fe)Sbまでも作製してFMSであることを証明した。(In,Fe)As, (Ga,Fe)Sb,(Al,Fe)Sbで様々なスピンデバイスの作製は期待できる。全体の状況を計画と比べ順調に進んでると考えていている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度ではこれまで作製したFeベースFMS((In,Fe)As, (Al,Fe)Sb,(Ga,Fe)Sb)を用いてスピンデバイスを作製する予定である。目指す構造はスピン江崎ダイオードとスピンバイポラートランジスタである。 スピン江崎ダイオードはp-n接合構造からなる。n型電極は(In,Fe)Asで、p型電極は(In,Mn)Asまたは(Ga,Fe)Sbを予定している。(In,Mn)Asを用いる利点は多くの先行研究より特性が良く制御できること、(In,Fe)Asとはホモ接合なので作製しやすいことである。しかし(In,Mn)Asでは正孔が不純物バンドに存在するためバンド設計が難しいことが欠点である。(Ga,Fe)Sbは比較的に新しい材料だが、TCが高いこととInAs/GaSbのタイプIIヘテロ接合の利点を利用できることが期待できる。これらの構造でトンネル磁気抵抗効果(TMR)と負性抵抗特性でTMRの増大を実現する予定である。 スピンバイポラートランジスタはn-p-n接合構造で、上記のスピン江崎ダイオード構造をn型基板上成長することで作製できる。このためこの2つのデバイス構造は密接に関係しており、1つの研究の2つの成果とも言える。スピンバイポラートランジスタによってトランジスタの倍増率を磁化によって制御する磁気増倍効果を実現する予定である。
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