キラルイオン対型触媒は、高い反応性をもつイオン性活性種とキラルイオンが強いクーロン相互作用により緊密なイオン対を形成することを利用して活性種の反応性や立体選択性を制御できるというユニークな機能への興味ゆえに、古くから広く研究されてきた。しかし、既知のキラルイオン対型触媒系を俯瞰すると、キラルカチオン触媒によるアニオン種の立体制御を実現した数多くの報告に比べ、相補的なキラルアニオン触媒による反応性カチオン種の制御に挑戦した例は非常に限られている。 本研究では新たなキラルアニオンとして、四配位のホウ素を中心に持つアニオンであるキラルボレートに注目した。ボレートは、テトラアリールボレートやテトラフルオロボレートに代表されるように配位性が低い安定アニオンとして汎用されてきた。しかし、これまでボレート骨格自体に立体制御能を求めるような試みは少なく、高い立体制御能を示すキラルボレートは全くと言ってよいほど知られていない。私は、ボレートが低い求核性とカチオン性中間体の安定能を併せ持っている点に着目し、適切な三次元構造を有するキラルな骨格が設計できれば高反応性カチオン種の立体制御を目指した研究に適用できると考えた。 本年度は昨年度に引き続き、独自に創製した配位性が低く高い安定性をもつキラルボレートを触媒量の不斉源とする立体選択的反応の探索を行った。まず、対イオンとしてプロトンを持つボレート塩を調製するためのイオン交換プロセスを確立した。続いて、極低温下でボレート酸塩を触媒として用いることで立体選択性が発現するカルボカチオン型反応系を見出し、反応条件と触媒構造の検討の結果、比較的良好な立体選択性で目的物を得ることに成功した。この研究により、第三のキラルアニオン触媒と位置付けられる非配位性アニオン触媒による反応性カチオン種の制御の実現に道筋をつけることができたと考えている。
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