研究概要 |
本年度は高サイコパシー傾向者の寛容性について検討した心理学実験の結果をまとめ, 国内学会にて発表した。具体的には, 他者間に不公正な状況が存在する場面に遭遇した際に, 参加者が自らの利益を放棄してでも他者間の不公正を是正するための介入行動を選択するか否かを実験的に検討した。加えて, 不公正是正のための介入行動とサイコパシーとの関連も検討した。一般的にわれわれは, たとえ自分の利益を放棄してでも他者間の不公正を是正したいという不公正是正動機を持っており, そのため積極的に介入行動を選択するとされる。本研究でも, サイコパシー傾向の低い人ではそのような傾向が確認された。しかし, 高サイコパシー傾向者は, 自身が確実に報酬を得られる状況では他者間の不公正状況への介入行動をほとんど選択しないことが明らかとなった。これは一見すると不公正な振る舞いをする人物に罰を与えないという点において, 高サイコパシー傾向者が寛容であるようにみえる。しかし同時に, 自身の利益のためには不公正を被っている人物を見捨てる可能性が高いという高サイコパシー傾向者の極めて利己的な特徴を反映しているともいえる。高サイコパシー傾向者の寛容性の二面性を示唆した本実験の結果は, 他者に対して共感しにくいとされる高サイコパシー傾向者が特定の状況, もしくは特定の他者に対しては共感を抱き, 寛容になる可能性を示唆しており, 高サイコパシー傾向者の共感性喚起を目指した今後の研究の重要な足掛かりとなりうる。 なお, 本実験で得られた成果は日本心理学会第77回大会および日本パーソナリティ心理学会第22回大会にて発表した。さらに, 日本パーソナリティ心理学会第22回大会では優秀大会発表賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は高サイコパシー傾向者の寛容性の高まりがいかなる状況, もしくはいかなる他者において認められるのかについてより詳細に検討するために様々な状況設定, 実験条件を設けた実験を実施する必要がある。また, 本研究の当初の目的である「高サイコパシー傾向者が利己的な動機づけではなく, 他者に対して寛容になるにはどのような手法を用いればよいか」を明らかにするためにより詳細に検討する。具体的には, 共感や寛容に関わる生理学的反応を測定し, それらの反応と高サイコパシー傾向者の寛容性との関連を検討する。
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