研究概要 |
本研究では、4つのアントラセン環で囲まれたナノ空間を有する分子ナノチューブの構築を行い、ホスト-ゲスト間の疎水性相互作用やπ-π相互作用を駆動力とした様々な有機分子の選択的内包と、それに伴う発光性制御を目指した。これまで、我々は発光性のアントラセン環を構成要素とした芳香環のみから成る分子ナノチューブを段階的なカップリング反応と官能基変換によって合成した。また、そのX線結晶構造解析により約1nmの内部空間を有することを明らかにした(K. Hagiwara, M. Yoshizawa, et al., Chem. Commun. 2012, 48, 7678-7680)。本年度は、分子ナノチューブ外面への水溶性官能基導入により、水中での疎水性相互作用を利用した選択的な分子内包と特異な分光学的性質の観測に成功したので報告する。 まず、分子チューブの合成ルートを改善して8段階の短縮により総収率の向上に成功した。また、分子ナノチューブの外面に水溶性官能基であるスルホネート基を導入により水に易溶な分子ナノチューブの合成を達成した。この分子構造はNMRおよびESI-TOF MSで明らかにした。 この水溶性分子ナノチューブは、水に難溶な棒状の飽和炭化水素やビフェニル誘導体を内包できることを明らかにした。また、平面状の色素分子であるクマリン誘導体では、嵩高い官能基を有する場合、チューブ内に1分子取込まれ、可視光によって励起されたアントラセン環からクマリンへのエネルギー移動(FRET)が観測された。一方、立体障害の少ない構造の場合ではチューブ内に2分子取込まれ、クマリン同士のエキシマー発光が観測された。これらの内包体の構造はUV-visスペクトルを利用した滴定実験とESI-TOF MSによって明らかにした。
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