研究課題
本年度は、PD申請時に提示した研究計画に従い、ウンブリアとフィレンツェの画家たちの共同制作の場であり、同時に競作の舞台ともなったシスティーナ礼拝堂壁画において、画家の個性がどのように発揮されているかを、特にサンドロ・ボッティチェッリが制作した画面に注目して研究を進めた。本内容は、昨年のヴィッラ・イ・タッティ滞在時に取り組んだ課題を掘り下げたものでもある。PD採用の2年目に、国内の学会や研究会だけでなく、上海で開催されたヴィッラ・イ・タッティ主催の国際学会において口頭発表し、専門家からの意見を聞けたことは、採用期間が3年間あるPD制度を十分に活用できた1年間だったと実感している。以下に研究の概要を記す。1481年、ボッティチェッリは、教皇シクストゥス4世の命により、システィーナ礼拝堂壁画装飾事業のためにローマへ招聘された。そして彼は、当代一流とされた親方達と共に、本礼拝堂壁面の中層に〈モーセ伝〉と〈キリスト伝〉連作をフレスコ技法で描いた。制作にあたっては、各画家に同じ大きさの横長の画面(約3.40×5.40m)が割り振られ、ボッティチェッリは《キリストの誘惑》《モーセの試練》《コラの懲罰》の3場面を担当した。15世紀のシスティーナ礼拝堂装飾壁画に関しては、画家たちが壁画の全体的な統一感を重視し、地平線の位置や人物像の大きさ、色彩の利用法に関して一定の取り決めを行っていたという共同制作についての諸問題が考察されてきた。一方で、本事業における画家たちの競作という側面に関しては、常に指摘されながらも、その実態解明が十分になされているとは言い難かった。そこで今年度は、本壁画連作の制作順序に関して、新たな論を提示した上で、《モーセの試練》と《反逆者たちの懲罰》をとりあげ、画家が壁画全体の調和に配慮しながらも、独自の画面を構想して、他の画家達との差別化を図っていたと考えられることを明らかにした。
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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Amusante et poe'tique, studi per Enzo Bilardello
巻: 1 ページ: 47-56