研究課題
水田輪作体系が流域の水・物質循環へ与える影響の解明を目的とし、水文流出モデルによる河川および地下水からの窒素・リン流出解析を行う。特に、高度化された水田生産基盤技術の一つである「地下水位制御システム(FOEAS)」導入に伴う下流への流出経路とそのタイミングの変化を明らかにするため、2年目は輪作畑内の地下水位変動による水・栄養塩収支の解明に向けて以下のとおり進めてきた。【1.地下水位制御システム設置ライシメータを用いた地下水位変動による水・栄養塩収支の解明】1年目と同様にライシメータ全6区画(面積は13m2)のうち、地下水位を①-60cm区、②-30㎝区(標準区)、③水位変動区の2反復3パターンに区分し、2014年7月上旬にダイズ「サチユタカ」を、同年12月に、コムギ「せときらら」を作付けし、水・窒素収支を評価した。ダイズ作において、②標準区では降水量がそのまま排水量に反映したのに対し、③水位変動区では降水量に比べ排水量は少なかった。最終的な給水量は両区に2倍以上の差があったが、収量に有意な差は見られなかった。管理方法の工夫により地下水位を一定に保つ標準的なFOEASの使用法(②標準区)に比べ、収量を低下させることなく灌漑水量を節約できる可能性が示唆された。一方、硝酸負荷量は2014年のダイズ作付け期間が最も多い結果となった。地下水位を高く設定して灌水している間、硝酸濃度は低下したが、地下水位を下げて灌漑を行わなかった間は、硝酸濃度は上昇したことから、前者は地下水中での脱窒を、後者は土壌からの溶脱が示唆された。【2.改良モデルによる流域影響評価】FOEAS技術導入の影響評価を行うために、中国地方のいくつかの流域(旭川流域、芦田川流域、児島湖流域)において水文流出モデルSWATのセットアップおよびパラメータの調整を行い、解析の準備を整えた。
2: おおむね順調に進展している
FOEAS技術導入による地下水位制御時のダイズ作およびコムギ作時の水・窒素収支が明らかになりつつある。2014年の冬に作付けしたコムギの栽培試験が今年7月上旬頃に終了するため、観測データの解析から構築するFOEASサブモデルの最終調整が必要ではあるが、本研究で目的としている、流域スケールでの評価のための水文流出モデルの構築を既に行っており、研究の進捗状況としては、おおむね順調に進展していると評価できる。
2014年12月に播種したコムギが現在も栽培中であり観測を続けていることから、コムギ試験が終了する7月上旬頃までを対象に、水・栄養塩収支の解明のための観測を実施する。研究期間中に栽培したダイズ2作およびコムギ2作の測定データを用いて、FOEAS技術導入に伴う、水・栄養塩流出量変化を明らかにし、水文流出モデルを用いた流域スケールでの技術導入時の影響評価を行う。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (16件) (うち招待講演 1件)
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