研究課題/領域番号 |
13J07569
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
大鹿 綾 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 聴覚障害 / 幼児 / 音韻意識 / 指文字 / 書字 / 遅滞群 / 介入指導 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き音韻分解課題、指文字表出課題、かな単語書字課題を行った。対象児はろう学校幼稚部在籍児計43名であった。三課題の発達過程は昨年度の結果を支持するものであった。 今年度は音韻意識の発達に何らかの課題を持つと思われる幼児について2事例への介入を行った。a児は昨年度、音韻分解課題は平均程度だが、特に書字課題が低迷していた。聴覚活用しており、単語自体は正しく発音しているように思われたが曖昧さ、特殊音節の書字ルールを習得していない様子がみられた。そこで担任教諭にも協力を依頼し、日常の中で指文字での確認をより丁寧に行うこと、日記指導等での特殊音節書字への指導を行った。併せて担任教諭からの注意に課題があるとの報告から、研究代表者と個別で、間違い探しゲームや豆運びゲーム等を行った。今年度になると、成績が急上昇し、最終検査回では3課題共に平均を上回ることができた。しかし、拗音において大きい文字の部分が脱落してしまう誤りは残った。 b児は人工内耳装用、音声中心としつつ手話を併用している。昨年度は、音韻分解のタイミングがつかめない、途中で混乱してしまう、音節単位での分解、文字列で表せないといった様子がみられた。質問応答関係検査では擬音語・擬態語、迂回表現の多用が見られた。また、こちらが手を打ったものをまねさせると、リズムが途中で変化したり、同一のテンポでもゆっくり、早くとなるとそのリズムを一定に保てない様子が見られた。今年度の検査では成績が伸び、特に指文字表出時に誤ったものを模倣練習した結果、直後の書字課題では正答率100%まで達した。一方で指文字課題は、個人内では伸びているものの未だ平均値には達していない。分解できているものの、指文字表出を促すと自信がなくなってしまう、聞き誤って覚えている様子が見られた。2名とも保護者の希望もあり、来年度小学部1年生でも個別介入を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
聴覚障害児の音韻意識、指文字表出、かな単語書字の発達過程について2年間、43名分の縦断的なデータが得られた事は貴重であり、多くの知見が得られると期待でき、研究目的の一つを大きく達するものであると考える。聴覚障害幼児の音韻分解課題は4歳代前半から伸び、5歳0カ月頃には正答率80%に至る事が分かった。聴児とほぼ同時期に音韻分解ができるようになる一方で、伸びは若干緩慢であり、一部には成績が停滞する者も見られた。 指文字表出課題で正答率80%を超えたのは、5歳6カ月頃であることが示された。聴覚障害児においても音韻意識が十分に発達することで、指文字で単語をつづることができるようになる事が示された。誤答の様子では拗音、拗長音での誤りが年齢を重ねても最後まで残りやすかった。 かな単語書字課題では、前の2課題を追うように正答率が伸び、指文字表出課題が正答率80%になるころにほぼ追い付く形となることが分かった。初めは単語自体を文字列で認識してない段階があり、続いて文字列で理解しているものの文字の形自体が十分に取れない(鏡文字含む)段階、その後かな文字一文字一文字の形が正しく書けるようになると指文字表出課題と正答率がほぼ重なってくる様子が見られた。いずれの段階を通しても、指文字表出で綴りを誤った場合はかな単語書字も同様に誤ることが多く、聴覚障害児は指文字を頼りにしながらかな単語書字を完成させていくことが示唆された。 また、今年度は特に2事例を取り上げ、介入指導を行うことができた。2事例の困難の在り方はタイプが異なっており、今後それぞれの困難と介入効果について詳細に検討していきたい。一方で介入指導にもう少し十分な時間、回数を割くことができればより多くの情報が得られたであろうことは反省点であった。 以上の成果等に基づき、上記の通りの達成度と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は最終年度となる。26年度から継続となる幼稚部6歳児クラス在籍児の音韻分解等課題を行うとともに、事例検討に特に重点を置きたい。26年度の結果を基に既に介入研究を開始している2名と併せて、新たに3名程度に介入指導を依頼する予定である。26年度に介入を開始した2名は聴覚活用を中心としている児であることから、手話を主なコミュニケーション手段とする者も抽出したいと考えている。手話単語には書き言葉の音韻や文字にあたる要素は含まれない。もちろん手話を用いて概念や知識を深めることは非常に重要で有効なものであるが、一方で手話から書き言葉にどのようにつなげていくのかは新たな課題として注目されているところである。これまでの検討結果から、手話を用いる幼児の中にも書き言葉をスムーズに習得している者もいれば、手話では表現できるもののなかなか文字列として単語を表出できない者もいた。家庭での言語環境や本人の認知能力等の違いも考慮しつつ、手話から書き言葉へのスムーズな移行のためにどのような要件が必要なのか、どういった指導が効果的であるのかも検討したいと考えている。各児月1回程度の介入と宿題による家庭指導、学校担任、保護者との連携を図っていきたい。 また、3年間の研究結果を総括し、学会発表、論文投稿をしていく予定である。多くの聴覚障害児について3年間の縦断的なデータを得られたことを活かし、聴覚障害幼児の音韻意識と単語書字能力の発達について誤答分析や聴力や言語力との関係を分析したい。現在、保護者及び学校に聴力、言語検査等の情報提供を依頼しているところである。介入研究については事例的検討ではあるが、聴覚障害幼児の一つの困難ケースモデルとして聴覚障害児教育全般に寄与するような情報が得られると期待している。
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