研究課題
セルロースは植物の細胞壁の主成分であり、地上に最も多く存在する生物由来資源である。しかしセルロースは結晶構造を取り植物体は強度の源である為、セルロースの分解及び変換は非常に難しい。一方自然界においてカビやキノコなどの糸状菌は、分解者としてセルラーゼを生産し木材などを栄養源に生育している。特にCellobiohydrolase (CBH)型と呼ばれるトンネル状の触媒ドメインを持つ糸状菌特異的なセルラーゼ(CBH型Ce17)は結晶性セルロースを分解する活性が高い事が知られている。本研究ではそのセルラーゼについて結晶性セルロースに対する反応メカニズムを解明する事で、セルロースを効率的に分解する為に必要な酵素の性質について知見を得る事を目的とした。まずカビの一種であるTrichoderma reesei由来のCBH型Ce17 (TrCe17A)のN末端側から40番目のトリプトファン残基(W40残基)は、トンネル構造の入り口部分に存在しており全てのCBH型Ce17に保存されている事が判明した。そこでフィンランド国の技術センター(VTT)との共同研究によりTrCe17AのW40残基をアラニンに変異させた酵素(W40A)を作成した。活性を測定した結果、可溶性の基質に対しては2つの酵素でほとんど活性に差が見られなかったが、W40Aの結晶性セルロースに対する活性は天然型の酵素と比較して明確に低下していた。そこで次にこの理由について東京工業大学との共同研究により、分子動力学シミュレーションを行った。WTではW40残基によりセルロース鎖の末端を保持し、トンネル内部にセルロ一ス鎖を導入できるのに対して、W40Aではセルロース鎖の末端を正しく保持できない事が分かった。またTrCe17Aとキノコの一種であるPhaerochaete chrysosporium由来の2種類のCBH型のCe17について、金沢大学との共同研究により高速原子間力顕微鏡を用いて結晶性セルロース上での一分子当りの反応速度と連続反応回数(プロセッシビティ)を測定した。結晶性セルロースへの活性とそれぞれのパラメーターを比較した所、プロセッシビティの高い酵素ほど結晶性セルロース分解効率が良い事が明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
研究を進めた結果、結晶性セルロースを分解する上でプロセッシビティが重要なファクターである事が判明した。また結晶性セルロース分解時のボトルネックが反応開始可能なセルロース鎖末端を拾う段階にある可能性が判明した。
Trichoderma reesei菌由来TrCe17Aの天然型酵素及びトリプトファン変異体について、セロオリゴ糖に対する動力学的パラメーターの決定を行いトリプトファン残基のプロセッシビティへの役割などを調べる。
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