ツバサハゼ科を含むハゼ亜目魚類5科23属25種における側線系とその神経支配を明らかにした.これにより本亜目魚類における側線系と側線神経系における一様性と多様性が明らかになった.また,他の魚類同様の側線管配列パターンを有するツバサハゼ(ツバサハゼ科)の観察により,本亜目における数百個もの表在感丘からなる側線系の進化的な起源について興味深い知見が得られた. ツバサハゼでは,躯幹部側線管は溝のある鱗(側線鱗)とそれを覆う表皮により構成され,骨質の「ルーフ」を欠いていた.他のハゼ亜目魚類では,側線鱗には感丘列のみが分布していた.他の魚類における側線鱗の個体発生様式から,本亜目における側線系に一連の幼形進化的な変化が生じたと判断された.また,ツバサハゼでは,第1背鰭基底下に側線管を伴う鱗が1枚あった.これは,本亜目魚類がアーチ状の躯幹部側線系を有する分類群から分化した為と考えられた. ハゼ亜目においては,眼窩下方に分布する表在感丘の列が,多様な配列パターンを呈する.このうち,眼窩下を前後に伸長する列b とdは,すべての種で確認され,共通して下顎神経枝により支配されていた.従って,亜目内で相同な列と判断された.一方,ツバサハゼにはない列aとcは,ツバサハゼの眼下管の管器感丘と同様, 頬神経枝が支配していた.このことから,列aとcは眼下管の消失に伴い管器感丘が表在感丘に置換された列と考えられた.眼窩下を上下に横断する感丘列については,神経系による種間における各列の相同性についての判断はできなかった. ハゼ亜目魚類では側線管の幼形進化的な退化により,管器感丘が表在感丘へ置換され,側線管による感丘配置の制約が失われたことが,多様な感丘列の分布パターンの獲得を可能にしたと考えられた.そして,感丘列の分布様式の可塑性が,本亜目魚類の様々な環境への適応放散をもたらした要因の一つであると考えられた.
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