研究課題/領域番号 |
13J07650
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石川 豊史 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超伝導量子ビット / 量子光学 / 回路量子電磁気学 / 量子情報処理 |
研究実績の概要 |
量子情報ネットワーク実現において、遠く離れた2つの系の間での量子情報の送受信は魅力的かつ重要な研究分野である。本研究では、超伝導量子回路の高い制御性を利用した高効率な量子情報ネットワークの実現を目標とし、超伝導人工原子を用いたマイクロ波量子光学および量子情報ネットワーク構築という課題名で研究を行っている。 本研究では量子情報の長距離送信の担い手として伝搬光子に着目しており、特に光子損失に対して耐性のあるタイムビン伝搬光子の生成のための研究を進めている。昨年度にタイムビン伝搬マイクロ波光子の生成方法を提案したので、本年度はタイムビン伝搬マイクロ波光子生成のための超伝導量子回路の作製を中心に研究を進めた。 タイムビン伝搬マイクロ波光子を生成するに当たり、まずは単一マイクロ波光子を、超伝導回路を用いて生成する必要がある。単一光子を生成するためには、超伝導共振器内に1光子状態を生成しなければならないので、最初の段階として共振器中の光子を制御できる超伝導素子を作製する必要がある。本研究では、超伝導量子回路中の伝送線路共振器はニオブ、超伝導人工原子はアルミニウムとアルミニウム酸化膜によるジョセフソン接合を用いることで作製した。作製した超伝導回路をマイクロ波透過測定で評価すると、伝送線路共振器中の光子と超伝導人工原子の相互作用の強さは60 MHz、共振器の緩和レートは4 MHz、人工原子の緩和レートは0.2 MHz程度であることがわかった。これは、共振器中の光子と人工原子が強く結合していることを示しており、共振器中の光子を、人工原子を用いて制御すること可能であることを意味する。 また、本年度はジョセフソンパラメトリック増幅器の特性の改善にも努めた。超伝導量子干渉計アレイを用いることで、パラメトリック増幅器の飽和強度を14 dB向上させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究を進めるに当たり局所磁場印可による超伝導人工原子のエネルギーの動的制御は必須である。本研究では、超伝導人工原子が持つ超伝導量子干渉計(SQUID)を貫く磁束を制御することによって超伝導人工原子のエネルギーの動的制御を試みている。しかし、本研究で作製した人工原子は数100 MHz程度の範囲で動的に制御できるように局所磁場印可用のバイアスラインとSQUID間の相互インダクタンスを大きめに設計したのであるが、実際に評価したところ10 MHz程度しか動的に制御できていなかった。なお、直流電流を印可したところ相互インダクタンスは設計値通りであるので、バイアスラインの高周波応答に何らかの原因があると考えられる。次のステップとして、バイアスラインの高周波応答をシミュレーションし、バイアスラインの構造の最適化を行う必要があると考えている。 もう1つの問題は、超伝導人工原子のコヒーレンス時間である。上記の動的制御の関係で相互インダクタンスを大きくしているのであるが、そのため人工原子が磁束ノイズの影響を強く受け、コヒーレンス時間が100 ns以下と非常に短くなっている。なので、上記の動的制御を踏まえた上で、SQUIDの再設計も検討する必要がある。 以上の2点が、タイムビン量子ビット生成における大きな問題であり、現状のサンプルでは人工原子のエネルギーの動的制御による単一光子生成すら実装できていない。ゆえに、現段階の評価としては遅れていると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
現状の超伝導回路では超伝導人工原子の動的制御に問題があり、局所磁場用バイアスラインの高周波応答ならびに、SQUIDとバイアスラインの間の相互インダクタンスを再検討する必要がある。そのために、バイアスラインの高周波シミュレーションを行い、最適な設計を模索する予定である。また、現状の方針では人工原子のエネルギーの動的制御での単一光子生成を試みているが、最近ではマイクロ波のパラメトリックな遷移による単一光子生成も検討している。なので、上記バイアスラインのシミュレーションを行うとともに、マイクロ波のパラメトリック遷移を用いた単一光子生成ならびにタイムビン伝搬光子生成のシミュレーションを行う予定である。 コヒーレンス時間の改善については、上記のバイアスライン最適化に伴いに相互インダクタンスの検討も行い、磁束ノイズの抑制を試みる予定である。また、人工原子の緩和時間向上のために、超伝導量子回路の品質改善も重要な課題である。今までのサンプルは超伝導回路をシリコン酸化膜上に成膜していたが、最近の測定でシリコン酸化膜を除去した方が共振器の内部損失を抑制できることがわかった。共振器の内部損失を抑制する成膜方法は人工原子の緩和時間改善につながることは過去の研究からわかっているので、超伝導量子回路をシリコン酸化膜を除去した状態で成膜し、緩和時間を評価する予定である。 現状では、量子情報の送受信のうち、量子情報の送信の部分しか十分に考察できていない。なので、量子情報の受信、特に超伝導量子回路から生成されたタイムビンを如何に効率良く吸収するかを検討する必要がある。なので、受信方式についてもシミュレーションなどを用いて、タイムビン伝搬光子を用いた高効率な量子情報の送受信についての指針を示したい。
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